第10話 東京
「さぁ、ついたぞ。ここの森の便器だろ?」
俺は、つにて始まりの場所に帰ってきた。
あっという間の時間だった。
「さぁ、もうこんなところに迷い込むんじゃないぞ。
”白うさぎの両替商”は世界にあと3つしかない激レアトークンなんだ。」
「え!そんなに数が少なかったの!?」
「昔はたくさんあったんだけど、例の事件以降、最重要注意トークンに指定されてほとんど破棄されたよ。」
「そうか、数に限りがあるのか…。じゃこれ使ったら残り2枚か…」
「ちょっと違うかな。トークンを使ったならその分がまたどこかで入手できるんだ。
破棄すると消滅してしまうけどね。まぁお前が心配することじゃないよ。
…さぁお別れの時間だ。達者で暮らせよ。
…ん?どうした?」
俺はもう二度と来れないと思うと、寂しい気持ちが溢れ出てきた。
「この世界…なんか新鮮で楽しかった。
…普段似たような毎日を送っているから…
できることなら…また、ここに来たい…」
「はっはっは。そうか、まぁ思い出になったならよかったな。」
黒ウサギは取り付く島もない。
「お、お前はもう一度現実世界に行きたいと思わないのか?
明日も、明後日も、昨日とおんなじような毎日でいいのか?」
俺は黒うさぎのことを何も知らないのに、聞かずにはいられなかった。
「…ふ、失礼なやつだな。
そうだな。帰れるものなら帰りたい。昔はある程度行き来したもんさ。
けど、もう相方が死んでしまってな。俺にはもう戻ることができないんだ。」
「ということは、相方がいれば行き来することができるのか?」
「まぁそうだが、、お前まさか…?」
俺の頭の中にはウサギがいた。あいつと入れ替わればまた来れる。
「おれ、あいつと…いや、だめか、ウサギのまま戻れなくなってしまうのか。」
「だ、大丈夫ぴょん」
!!!
木の影からいきなり会話に参加してきたのはもちろん俺を騙したウサギだ。
「う、うさぎ!!!」
俺は大きな声で叫んだ。
「人格を交換しなくともお互いに取り憑き合うように、守護霊のような感じで、
クリプトワールドと現実世界を行き来できるようにはできるぴょん。」
俺は、思わず黒ウサギを見た。
「本当か?」
「あぁ、そうだな。このトークンのバグに関する研究は一通り済んでいるんだ。
設定をしてからこのトークンを使えば、クリプトワールドではウサギにお前が取り憑いて、現実世界ではお前にウサギが取り憑くということができる。」
「お願いぴょん。僕もリアルワールドに連れていって欲しいぴょん。
君がこの世界に来たい気持ちと一緒なんだ!わかってくれるぴょん?」
俺は悩んでいた。しかし、
「で、でも、このトークンを使ってしまったら、またこのトークンを見つけるまで戻れないのか…。」
あまりの非現実さに、踏みとどまろうとした時。
「ヘイウォレット!
…
大丈夫ぴょん!もう1つ持ってるぴょん!」
ウサギはウォレットからもう1つ”白うさぎの両替商”を取り出した。
「これで、リアルワールドに行けるぴょん」
「お、お前、なぜそんなにたくさん持ってるんだ??」
「この計画のためには3枚すべてのトークンを集めることが必要だったぴょん
迎えにいく時、入れ替わる時、そして、現実世界にいく時。
これは3つ目のトークン。
…
さぁどうするぴょん?
最後に決めるの自分ぴょん!」
「こ、このクソウサギがッ」
…
…
朝8時58分着、高崎線東京行きの先頭車両の個室トイレ。
「まもなく東京駅〜、東京駅〜、終点です。」
俺は現実世界に帰ってきた。
気がついたときはスマホを片手に便器に座っていた。
俺は慌てて身嗜みを整えて、壁にかけたバックをとって、トイレを出た。
(あ!首にかけながらポケットに入れている社員証がブラブラ外に出てる!
周りから見られて恥ずかしいんだよな〜…)
俺はハッとした。
(そうか、一番初めにうさぎに根井直樹くんと呼ばれたのは、
これを見られたのか。…くそ。)
何から何まで騙されて、俺は悔しがっていると。
「そうだぴょん。根井は騙されやすすぎるぴょん」
結局、俺はこの嘘つきウサギと一緒にリアルワールドに帰ってきた。
他の人からは見えないけど、俺の肩に乗っている。
こいつの名前はニトネイ。
いまさらだが、名前がちゃんとあったらしい。
こいつとの最初の冒険はこれでおしまい。
ここからまたたくさんの冒険を共にすることとなる。
「…そういえばトークン使い切ったけど、どうやってクリプトワールドに行くの?」
「だいじょうぶぴょん!方法はあるぴょん。
それにしても君は本当に後先考えないんだね?」
おしまい。
クリプ島の白うさぎ ニトネイの冒険記 nitonei @nitonei
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