第9話 フォーク
「その昔、俺が初めてこの世界にきた時に、偶然”白ウサギの両替商”を入手したんだ。このトークンにはバグがあって、バグを利用して現実世界へ帰ることができた。それを知った俺はすぐに帰ろうとしたんだが、ひょんなことから2つ目を貰えることになって…それで…興味本位でこのトークンを使ったたんだ。」
黒うさぎは過去を振り返りながら語りはじめた。
「それまでに色々と世話をしてくれていた黒うさぎがいたんだけど、不思議なことにこのトークンを使った瞬間、黒うさぎと俺の身体が入れ替わったんだ。」
「この事件はこの島で大きな騒動となった。研究者は原因究明に躍起となってついに突き止めたんだ。ある条件が揃った時に入れ替わってしまうバグであること。」
俺は固唾を飲んで聞いていた。
「この島に住むすべての生き物の間でも意見が真っ二つに割れたんだ。黒ウサギになった俺と人間になった黒うさぎ。片方はなってしまったものはしょうがないと受け入れる意見だったが、もう片方の意見はどちらも処刑することで元の混じりっ気のないピュアな世界に戻すことだった。
いつまで経っても折り合いのつかない議論はついに争いを巻き起こしたため、ある時、お互いを干渉しない、別々の世界で生きていくことが決まりこの島は真っ二つに分けられたんだ。」
俺には理解がついていかない話だったが、
とにかく俺の身体が狙われていてある条件を整える必要があったことがわかった。
「おい、教えてくれ。どんな条件でバグが起こるんだ?」
黒うさぎはじっと見つめながら、
「ウォレットに”白うさぎの両替商”のみが入っていて、たった1匹とのみウォレット上でのやりとりがあるとき、この二つの条件が揃った状態でこのトークンを使うと、自動的に人格を交換してしまうんだ。」
「そ、そうだったのか、全ては仕組まれていて、俺の身体をのっとるために…」
「残念だったな。まぁよかったじゃないか、身体は乗っ取られていないし、そのトークンもまだ使っていない。お前はもう現実世界に帰りなよ。森の便器を知っているか?帰り道まで案内するよ。」
ぐすん、ぐすん。
「森の便器は知ってる。でも案内はお願いするよ。」
俺は悔くて涙が出た。
なんだかんだで新しい世界の新しい体験を楽しんでいたのに、
それを案内してくれていたウサギは全て騙すつもりでやっていたなんて。
俺は早々に洞穴を出て、着ていたネズミのスキントークンを脱ぎ捨た。
もちろん白うさぎの姿は見当たらなかった。
黒うさぎの案内で俺は森の便器へ向かった。
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