第5話 伝説の黒人参

目の前には崖がそびえ立っている。


「あのてっぺんに伝説の黒い人参があるぴょん」


うさぎが指を向けた先は、ゴロゴロとした岩場のような崖の最上部。


「な、なんでそんなこと知ってるんだ?」

流石にあまりの展開の速さからか、怪しむ気持ちがまた顔を出した。


「昨日の夜、流れ星が光を出し尽くして、黒い人参となってあの崖のてっぺんに落ちていくのを見たんだぴょん」


「…そうか、よしわかった。あそこに取りに行けばいいのか?」


「そうだぴょん!うさぎには登れるレベルではないぴょん!」


「なるほどね。」

理由さえ辻褄があっていれば、このクレイジーな展開に身を任せようと腹を括った。


崖の難易度は、趣味でボルダリングをやっていた俺に言わせれば、初級者がなんとか登れるレベル。うさぎにとっては伝説でも人間にはお茶の子さいさいのようなミッションなんだろう。


「あれをとってくれば、友達の病気は治って、無事元の世界に戻れるんだな?」


確認の意味を込めて確かめると、


「間違いないぴょん」


と返事があった。


「よし、任せとけ」


と、ひとこと言って俺は腕をまくった。


崖のふもとに行き、岩に手をかけ登り始めた。


(うん、この岩はかなりしっかりしているな)


スイスイ登っていく俺を、うさぎは下でじっと見ていた。



既に真ん中くらいまで登った。

今のところ全く問題はない。



8割登っても全く問題はない。



そして、もう手を伸ばせば崖のてっぺんに手がかかるところまで来た。


下を見るとうさぎはじっと見ていて、目があった。


「頑張れぴょん!もう少しぴょん」


とエールをくれた。ちゃんと応援している。

本当にここにある黒い人参が欲しかっただけなんだと安心しててっぺんに手をかけた。


「よっこいしょっと、登ったぞー」


「やったー嬉しいぴょん」


下でうさぎも喜んでいる。

俺は2分もかからずに登り切った。


崖の上は草原のように草が生茂り、狭めの体育館くらいの広さだった。


そして、その空間のほぼ中央に黒い人参が一本突き刺さっていた。


(な、なんて不自然なんだ。まぁこのクリプトワールドの世界感なんだろう。アイテムが不自然に落ちてるのはゲームでもよくある事だしスルーしよう)


「おい!うさぎあったぞ人参」


「本当ぴょん?わーいめっちゃ嬉しいぴょん!それを持って降りてきておくれぴょん」


ここはこの島のてっぺんのようで、辺りを見渡すことができた。

どうやら360°海が広がっている。

俺は大きく深呼吸をしてから、崖を下っていった。



降りるとうさぎは近くに寄ってきていて、黒い人参を早くもらいたそうにしていた。


「ありがとう!君はスゴいんだぴょんね!」


うさぎがいつになく興奮している。

目が輝いてるようだ。


「案外簡単だったよ。ほらこれで友達を助けな。」

と黒い人参を手渡した。


うさぎは1度深くお辞儀をしてから手を伸ばした。そして黒い人参を掴むなり、


「アップリンク」


と発した。その瞬間黒い人参はさっき見た様な光の粒に変わりうさぎの方へ向かい消えていった。


近くで見たから分かったが、光の粒は小さな立方体の形をしていて、表面には黒い人参の様な柄が付いていた。


おそらく、うさぎのウォレットに入っていったんだろう。


「ありがとう。まずはお礼がしたい。今くれた伝説の黒人参はNFトークンとなって僕のウォレットへ保存されたぴょん。代わりにこのNFトークンをプレゼントしたいぴょん」


「ヘイウォレット」


うさぎはウォレットを出して1つのトークンを選び掴んだ。


「君もウォレットを出してぴょん」


「お、おう」


「へ、ヘイウォレット」


恥ずかしがりながらカタカナ英語でウォレットを呼び出した。


うさぎはそれを見るなり、

掴んだトークンをこっちへ放り投げた。


その光の粒は僕の目の前、ど真ん中で浮いたまま止まった。


よく見るとあの時の、電車のトイレに貼ってあったうさぎの落書きシールの模様がある。


(これはもしかして、帰りの切符か?)


目を凝らして見ていたら文字が浮かんできた。


『白うさぎの両替商』


「…これがNFトークン?」

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