第2話 出会い

トイレの壁にうさぎのシール。

公園の公衆トイレならそこまで気にならなかっただろう。

ここは管理の行き届いた電車のトイレ。

不思議に思ったからだろうか、私はスマホのカメラを立ち上げていた。


カメラを向けてシャッターを押そうとした時、


もぞもぞもぞ


なんと、急にうさぎがシールから飛び出してきた。


(!!!な、なんだってー!?)


思わず声が出そうになった。

慌てて壁を見なおしたらそこには白紙のシールが貼ってあった。


(あれ!?お、おかしい、、たしかうさぎの落書きが…)


首を傾げていると、


「こっちだぴょん!こっちこっち」


小さな声が聞こえて来た。

辺りを見渡しても何も起きていないようだ。


「こっちこっち!手元を見て!」


私はハッとなって、恐る恐る手元のスマホを見ると、


「こんにちは!根井 直樹くん!」


!!!!!!

「ぎゃあああああああ!!!!」


(驚き過ぎて完全に大声が出た、やばい、やばい)

(っていうか何から突っ込めばいいんだああぁぁぁ)


「お、お、お、お前は誰だ!」

絞り出したのは、なんともありきたりの言葉だった。


「僕はうさぎだよ!シールの中に閉じ込められているんだ!お願いだから助けてくれよ!…ぴょん」


(うさぎのくせに、、ぴょんが馴染んでねぇ、、)

いつも私はどうでも良い脳内ツッコミをしてしまう。


「ま、まて、聞きたいことが山ほどあるんだ。まずなんで俺の名前を知っ…」


「時間が無い!時間が無いんだ!ぴょん」


めちゃくちゃ食い気味に遮られた。


「くそッ、勝手言いやがって…知るか、そんなこと。なんで俺の名を知って…」


「全部知ってる。名前も、職場も、家族も。ここでは無い世界から君のことを見ていた。君に助けて欲しいんだ。あと少しで僕はここから消えてしまう、そのスマホ画面で僕をタッチしてくれれば良いんだ。頼むよ!」


(また遮られたし今後はぴょんって言ってねぇじゃねぇか!)

全く自体が飲み込めないまま、うさぎが立て続けに喋り出した。


「いつもの日常を選ぶのも、これから始まる非日常に飛び込むのも君の自由だ!けど僕はこのチャンスを逃したく無い!あと7秒しか無いんだ!頼む!タッチしてくれ!タッチミーぴょん」


「これから始まるってなんだ!クソみたいな英語使ってふざけてんのか!誰が助けるか!クソうさぎが!」


「…でも、この先を見てみたい…」


「時間だぴょん」


うさぎがうっすら消え始めた瞬間、俺はうさぎをタッチした。


「このクソぴょんがッ!」


ピカッ


スマホが眩い光を放ち、目の前が真っ白になっていく。

タッチする瞬間、消えかかるうさぎの口元が緩んだように見えたのが不気味で、頭の中に焼き付きながら私は光に包まれていった。

高鳴る心臓の音にかき消されて電車に乗っている事を忘れていた。

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