クリプ島の白うさぎ ニトネイの冒険記

nitonei

第1話 入り口

朝7時3分発、高崎線東京行きの先頭車両。

ボックスシートの窓側が私の定位置だ。

新幹線でも特急でもない普通の通勤電車に旅路のような空間がある。


私は毎日2時間かけて、この電車に揺られながら東京の職場に通っている。


この日は、がら空きの電車がさらにがら空きで静まり返っている。

ゆったりとした時間が過ぎていく中で、いつもと同じ車窓を眺めていた。


すると、目の前に広がる田んぼの奥の遠くの方に何か違和感を感じた。

毎日乗っていないと気が付かないような微かな違和感だった。

目を凝らしてよく見てみると…


「キラっ!」


(な、なんだ!?何かが光った!?)


周りを見渡すと、他の乗客は何事もなかったようにしていて、

いつもより人が少ない以外の事は普段の景色と変わりなかった。


次の瞬間だ。私の身に激変が起こる。


(痛てててててええぇぇ!!)


急にお腹が痛くなり始め、苦しく、静かに悶えはじめたのだ。


(昨夜遅くに食べた激辛ラーメンが原因か?)


と、頭をよぎった頃にはもうトイレに駆け込んでいた。

そう、高崎線の先頭車両には車内にトイレが設置してあるのだ。


ガチャ


急いで鞄を壁にかけ、ベルトを外し、ズボンが汚れないように細心の注意を払いながら、便器に座った。


(ふぅ、助かったー。)


安堵と共にまたもや異変に気がついた。

異変と言っても全く問題ないが、さっきまでの痛みがまるで嘘のように消えていた。


(おかしいなぁ。)


違和感を感じながらも、またお腹が痛くなっては大変と思い、少し粘った。

しかしあまり心地の良い場所ではないので、早々と諦めズボンを履き始めた。


(ん?)


目の前の壁に何かが貼ってある事に気がついた。


白いシールのようだ。


下手くそなウサギの落書きが描いてある。


この時、なぜ、どんな気分でスマホのカメラを向けたのか?

今となっては全く思い出せない。

この出来事がきっかけとなって、なんとも稀有な2時間を私は体験することとなる。

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