宴の後の大惨事


 私の歌はまだまだ続いたのですよ……

 やはり……軍歌を強要されたのです。


 『抜刀隊』から始まり、『雪の進軍』、『元寇』、『敵は幾万』、『歩兵の本領』、『日本陸軍』……

 これ、リクエストなのですよ、でも不思議なのですね、まず海軍の歌がない、さらには個人の名前の歌がない。

 海軍がないのはね……


 お構いなしに殿方の盛り上がること……

 ビールを片手に大合唱なのですよ。


「大変です!ビールがなくなりそうです!」

「冷蔵庫の中だけになりました!」

 無くなったら、それまでと考えていましたが、この雰囲気ではそうもいきませんよ!


 急遽、ビールを取り寄せます。

 一体、どれだけ飲むのですか!


「料理もなくなりそうです!」

 急遽、ウィンナーをゆがいています!


 訳あり品で五種類混在、一キロのものです。

 味なんて、正直、どうでも良いのです!

 酔っ払いに味など分かりません!


 これを取りあえず二つです。


「ビールですから、これで良いでしょう!」


 女性陣は、優雅にデザートなんてお食べになっています。


 さらに追加のビールもウィンナーもなくなりそうでしたが、殿方たちが、さすがにぐったりしてきたのです。


 最後にお母様から、声がかかりました。

 『婦人従軍歌』……そういえば、お母様は帝国赤十字の名誉総裁でした……


 やれやれ……やっと、終わりましたが……その……


「うぇぇぇ」とか、「ぐぇぇぇぇ」とか……芝生に……


 女性陣が、メイドさんに……馬車の手配を……

 すると、お母様が、

「そんなことでは間に合いません!自分では歩けない方ばかり、私の名前で、宮殿の衛士と御者を呼びなさい!」

 しばらくして、宮殿の馬車と、衛士さんたちがやって来て、酩酊状態の殿方を馬車に乗せていました。


「雪乃、悪いわね、芝生は明日、係のものをよこします、今晩一晩、我慢してね」


「明日は、お父様達、二日酔いが酷そうですね……」

「まぁ、自業自得よね、でも、今夜は有意義だったわ……ありがとう……強引にことをすすめたけど、その茶番劇にもつきあってくれて」


「覚悟が固まりました、それに当初からのお約束、私は帝室の男性の方に嫁ぐのですから……」

「そうね、雪乃の気持ちは理解しているわ、条件闘争ならいくらでも構わないわよ♪どうしてもまずいことなら、陛下がなにかいうでしょうし」

「その時は、従います」


 芝生に風が吹き抜けるのですが……

 その臭いこと……

 今夜は、暑くても窓を閉め切らなくては……

 クーラーのある応接間に、皆で雑魚寝するしかないでしょうね。


 酔っ払いを引き取っていただき、食器などの片付けは明日にしましょう?


「皆さん、この臭いは我慢出来そうもありません、暑いけど、窓は閉め切りましょう!」

「応接間のクーラーを全開にして、今日は皆で雑魚寝しましょう、メイドさん達も一緒ですよ!もう貴女たちも、一蓮托生の仲間になったのですから!」


 皆で応接間に緊急避難です。

 後は野となれ山となれ、です!

 寝具は、この際、取り寄せました!


「やれやれ、やはり、お父様が絡むと、こうなるのですね……」

「そうですね、皇帝陛下も懲りないですね……」


「これから、このようなことが、たびたび起るのでしょうね……」

「どうして、殿方はお酒に飲まれるのでしょう……」


 洋子様が、あきれたように云いますと、文子様が、

「私が思うに、正妻様が怖くて、こんな時に羽を伸ばそうとなされるのではありませんか?」


 四人のメイドさんたちの中の一人が、

「文子様のおっしゃる通りと思います、家なんか、常はお母様の顔色をうかがっているお父様なのですが、他人がいると、お母様にしかられないと確信しているようで、グデングデンになるまで飲むのですよ!」


 この夜、私たちは何ということもない話を交わし、なにか仲間意識が芽生えたのです。

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