重陽の節句のお披露目


 重陽の節句の料理……

 やはり栗ご飯でしょうね。

 あと、茄子料理とウェブにありました。

 お酒は『加賀の菊酒』がお勧めらしいのですね……


 まぁ、菊酒なんてものは、美味しい日本酒に、菊の花びらを浮かせれば、良いでしょう。

 ちゃんとした物は、宮廷で飲んで下さいね。


 栗ご飯を一膳、ナスの煮浸しを一皿、そして菊酒。

 小さな白木のトレーにのせて、お出ししようと考えています。


 とにかく、ゆっくりとお話をしたかったのです。


 宴会は六時から、その一時間前に、最初のお客様がやってこられました。


「いらっしゃいませ、ご用意出来ております」

 応接間に設定した、10人用のテーブルを用意しており、そこに小さなトレーとささやかな料理を並べております。


「日が違いますが、ささやかに家族で重陽の節句を祝おうと思いました」

「ただ申し訳ありませんが、こちらの私と生涯を共にして下さる方の、同席をお許し下さい」

「特に皇太子殿下に置かれましては、お見知りおきをお願いします」


 皆さん、意味を理解されていると思います。

 皇太子殿下が、口説くことになる正妻候補と側室候補のお披露目、ということをね。


 お母様が、

「皇太子は初めて見る娘さんもおられるでしょうね、よく覚えておくのよ」

「ところでお名前とお年を、皇太子に聞かせてあげてくれない」

 満面の笑みで、お言葉を下さいます。


「脇坂文子です、十八になります」

「上泉洋子です、十五になります」

「ダイアナ・スチュアートです、十三になります」


 ここでおばあ様が、爆弾を投げ入れてくれます。


「皇太子さん、あと一人いると思いますよ、確か、神津小百合さんよね、十一歳かしら♪」


 さすがに何といって良いか……


「そうか、皇太子よ、雪乃の大事な友達だ、分かっているな?」

 お父様が変な念押しをしています。


「理解しておりますよ、全員、生涯大事にし、面倒を見ますよ♪」

「引き合わせてくれて、ありがとう、雪乃さん♪」


 あっ、いけない……搦手から……


「……ありが……とう……ござい……ます……」

「とにかく、こころを込めて調理いたしました、お食べ下さい……」


 私と三人は、ご招待した方々の杯に、少しづつ、お酒をつぎました。

 そして、

「出来ましたら、私たちのお酒を、飲み干して下さい……」

 皇太子殿下が、

「いただこう」といって、一気に飲み干して下さいました。


 もう、これで逃げられません!

 私が卒業すれば、皇太子殿下に、皆さんと一緒に傅きます。


「おばあ様、神津小百合さんは、ご本人のお気持ち次第です」

「そうですね、皇后さん」

「そうですね、お母様」


 武子様が、お母様に何か耳打ちをしています。

「皇太子さん、後ろの雪乃さんに仕えるメイドさんたち、考慮しなさいよ」

「分かりました!」


 何といえば良いのか……

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