やんごとなき方々

『ミズホ』の『アメ』の一族の伝承


 昼過ぎにやってきた慶子様が、

「内々で宮廷の爵位局に聞いてみたところ、今回の場合、久光様が婚約者として白川宮慶子に朝比奈伯爵家女主人の責務を委任する、との一筆があれば、私が雪乃さんの件を、届けることが出来るとのことでした」

 

 あわてて久光お兄様は一筆を書き、慶子様は正装して宮廷に……


 しばらくして、戻ってこられましたが、少しばかり困った顔をしながら、私に向かって、

「雪乃さん、内々に皇后陛下と皇太后陛下が、貴女をお召しになられています、すぐにお伺いしますから、準備してください」

 どうやら宮殿から、お迎えの方が来られているようなのです。


 えっっっっ、なんで私が呼ばれるの?


「しかし、慶子様、着ていく服が……ドレスはこの間、買っていただきましたが、宮殿へ上がるための礼服がいるのでは……」

「それは申し上げました、すると貴女が『帝国第一高等女学校』の奨学生試験合格をお耳にはさんでおられ、帝国第一高等女学校の制服で良いとの思し召しです」


 たしかに『帝国第一高等女学校』の制服は用意しておりますが……髪型は……

「髪型は『外巻き』でも『束髪くずし』でもよいそうですので、そのまま『外巻き』でいいでしょう、とにかく急ぎます」 


 慶子様、珍しく慌てておられます、どうやら『やんごとなき方々』が待っておられるようです。


 慌てて帝国第一高等女学校の制服を着込んで、お迎えの方とともに馬車に飛び乗り、宮殿へ……

 女官さんに案内され、曲がりくねった長い廊下を歩いて、ある部屋へ通されました。


 途中から女ばかりになりましたから、ここは後宮、ハレムのど真ん中なのでしょうね。


「朝比奈雪乃様、おこしです」

 精一杯のカーテシー……


 お声がかかるまで沈黙するように言われています。

 勿論、頭など上げませんよ、お声がかかるまでね。


「頭を上げなさい、急に呼び出したりして悪かったわね」

「帝国第一高等女学校の奨学生試験を、満点で合格した才媛と話しをしたかったのよ」

「ところで、どうして奨学生試験を受ける気になったの?」


 でお兄様に訴えたように、お兄様の顔に泥を塗ることはしたくなかったと、答えました。


 このとき、始めて皇太后様が声を出されました。


「皆は少し席を外してくれない、皇后と私でこの娘さんとお話をしたいのよ」

 皇太后様が、ズラリと並んでいた女官さん達を下がらせました。


「さて、ここには私たち三人だけ、ここで話された事は口外しないと約束するわ」

「では単刀直入にお聞きします、雪乃さん、貴女、聖女でしょう?」

 えっっっっなんで聖女の話しが出るの!


「そんなに驚かなくてもいいのよ、この『ミズホ帝国』の帝室一族たる『アメ』の一族には、聖女の伝承があるのよ、『アメ』の長者たる皇帝と、その妻しか知らないのですけどね」


「聖女が世に出るとき、帝室一族の女長老に神の啓示がある、それはある文字で記される文が、天から降りてくると云われている」

「そして先頃、その文が私に降りてきたのよ」

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