お買い物


 翌日、慶子様は再びやってこられました。

 

「雪乃さん、お買い物に行きますよ、久光様にはお許しをもらっています」

 

 で、慶子様の馬車にハル様とともに乗せられ、服屋さんへ……

 ドレスを皮切りに、これでもかというほどの服を買って頂いて……


「慶子様、そんなに……それにお高いですし……」

「雪乃さんは気にすることはないのよ、久光様よりお金は預かっております、ねぇ、ハルさん」

「はい、奥様」

 慶子様って、もう奥様と呼ばれているの?


 服屋さんに続いて、帽子屋さん、そして靴屋さん、洋品店……

 一騒動が終わったときには、お昼をとうに過ぎておりました。


「あら、嫌だ、お昼がまだだったわ」

「雪乃さん、なにか食べたいものはない?」


「出来れば私、ハンブルグステーキ――ハンバーグの事――を……」

「ハンブルグステーキ?」

「慶子様、ハンブルグステーキとは、挽肉料理で、ステーキに使用しない部分のお肉を使うお料理です、王国では庶民がよく食べられています」


「朝比奈伯爵家では食べるの?」

「いえ、出されることはありませんが……」


「すいません……私……孤児院育ちで……ご馳走というとハンブルグステーキしか知らなくて……」

 実は前世では、私はハンバーグが大好きな庶民でしたからね。


「このあたりで、そのハンブルグステーキを出すところってある?」

 慶子様がハル様に聞いていますが、このあたりは帝都でも超高級なお店が集まるエリア、近くにはありません。


「困ったわね……」


 慌てて明治の西洋料理をネット検索すると、明治29年の『西洋料理法』に載っていたのがビーフ・カツレツ、超高級店でもあるはずです。


「あの……ビーフ・カツレツも食べて見たいので、よろしければ、あちらのお店なら……出して頂けるかと……」

「ビーフ・カツレツね、雪乃さん、お肉が好きなのね」


「たしかに、あのお店なら出してくれるでしょう、行きましょう!」


 で、超高級レストランへ……予約などしていないので、大丈夫なのでしょうか?


「これは慶子女王殿下、ようこそ!」

「予約してないけど、良いかしら?」

「大丈夫でございます、そうそう、ご婚約、おめでとうございます」

「そうね、もうすぐ女王殿下と呼ばれなくなるけど、これからも歓迎してくれるかしら?」

「当然でございます」


「そうそう、こちらは朝比奈伯爵の妹、雪乃さんよ」

「朝比奈雪乃様ですか、これからも当店をご贔屓をお願いします」


 で、美味しいビーフ・カツレツを頂いたわけです。


 このときには午後の四時を過ぎていました。


 山のような荷物を抱え、急いで家に戻って、慶子様にハル様まで加わって、大ファションショーをすることになりました。


 最後は髪を……これが、やれ、マーガレット、いや、ラジオ巻き……

 散々いじられて、外巻きに落ち着きました。


 さて、夕食です。

 慶子様はお帰りになりましたが、私は今日の出来事を久光お兄様にご報告しています。


 我ながらはしゃいでいます。

 

「そうか、良かったな」

 もう!こんなにおめかししている妹を前に、『そうか』だけなのですか!


 で、翌日、私に『あれ』が始まったのです。

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