第50話 王位継承
カタカの城は装飾や細工などは無く、質素なるもので、お世辞にも豪華とは言えない。
それでも、この世界の最高級の材で作ったであろう建築は、厳かな威厳を放っていた。
「石之助殿、こちらでございます」
アギは渡り廊下の先にある、大きな扉の前で立ち止まると、この先が、王の間であることを告げた。
「この先に居てはるんやね、無礼のない様にせなあかんね、ほな行こか」
「そんなに緊張する必要はありませんよ、私達の王は、心の広いお方なのです」
アギはそう言うと、ぎぃーっと扉を開けた。
すると、外観からは想像がつかぬ程に、豪華絢爛な空間がそこにはあった。
「うわっ、眩しいくらいに金ピカやな!目を開けてられへん」
「ふふ、ご冗談を、石之助殿。さっ、前の玉座をご覧ください、あちらにお
「あ、わ、わし、いや、私は石之助と申します。ドメイルからやって来ました」
無礼のない態度で挑もうにも、素養が無い石之助が、あたふたとしていると、掠れて枯れた声が玉座の方から、ぞぞぉっと聞こえて来た。
「アギ、辞めんか、客人であるぞ。そんなに堅苦しくするでない。石之助殿、よいのだ、普段通りで構わんよ」
「はっ、御意に」
「うむ、では石之助殿、申し遅れたが、わしがイジサン・ツクポリ2世じゃ。遥々ドメイルからご苦労であったな」
「王から直々の労い、有難き幸せに御座います」
石之助はそう言いつつも内心では、(しかし、なんと。えらい爺さんやないか今にも…)と思うほど、玉座に深く鎮座するのは、もはや皮と骨しか無いと言える程の御老体の爺様であった。
「ところで、石之助殿、ドメイルではどんな要職に就いて居たんだね?」
「要職なんてあらへん、わしは其処らの石と同じや。いや…待てよ、仕事ちゃうけど、ついさっきまではドメイルのお姫様と一緒に旅しとったな」
「付け加えて、この私と戦い、勝利されている。私の完全体でも到底敵いますまい。それ程の手練れでございます」
「そうであったか、なれば石之助殿は王家直属の近衛兵。しかもカタカ最強の戦士アギをも凌ぐ力を持つと。これは頼もしい、そんなに御仁が何故このカタカへ?」
「いえね、立派な理由なんて何もあらへん。何やろうね、わしはただ、アギさんの事信じて来ただけですよ」
大袈裟だが、間違いではない紹介に、照れ臭くもある。
どうもこういった慣れないやり取りで、困った石之助の口から出た答えは、なんとも木訥であった。
それが逆にツクポリ王の心を掴んだのだ。
「ふむ、石之助殿の飾らぬ人柄、わしは気に入ったぞ。
「な、なんと!王位を石之助殿へ!しかし、ドメイルの民がカタカの王になるなど、国の者は納得せぬと思われます。何卒お考え直しを」
「ふぉっふぉっ、わしも莫迦ではないぞ、反発がある事は百も承知。王位はタダでは継承せん、石之助殿が王に相応しいと認めさせれば良い。簡単なことじゃ、現にそうなのだからな」
「はい、さすれば、
ツクポリ王の考えた作戦とは、カタカ一番の戦士アギと石之助が王位を賭けて真剣勝負勝負をし勝者が王位を継承するというものだった。
稚拙ではあったが、カタカの国民性であれば、其れが一番良いのであろう。
「それでは、アギよ試合は一ヶ月後じゃ、よろしく頼むぞ」
「御意に」
無茶振りだが、やり切れる、アギは
「アギさん、えらいことなったけど、冗談やろ?わし王様なんてなりたないし。アギさんとも無駄に戦いたくはないねんけど」
「いえ、冗談ではありません、王は本気です。それも仕方ないのです、王には跡継ぎおりませんし、寿命も近い、王位継承は急務だったのです」
「それはまあ、分かるけど、だったらアギさんが王でええやろ?」
「それではいけません、私は王には不向き、王をサポートをする立場が一番この国の為になるのです。それはツクポリ王もご承知、故に今まで骨身を削り王として統治してくださっていたのです。そこに、石之助殿が現れたということで、王にとっては千載一遇の好機。此れを逃す事は出来ないのです」
「なんや、えらい大そうな事になってしもうたな…」
一ヶ月の後、王位継承戦に於いて、石之助はアギに勝利。
石之助はツクポリ王の念願通りにカタカの王になった。
巡り合わせとは、なんとも不思議なもの、誰が石之助がカタカの王になるなど予想出来ようか。
この後、石之助の統治下となったカタカは、永く平穏な時代が続くのだが。
例の門の出現、時空の歪み、カタカの消滅という危機が重なり、国力は低下、カタカの民の生命は行き場を失っていた。
こうして、カタカの存亡をかけて、石之助はやむなく、ドメイルへ向かう事に決定したのだ。
そう、この時は侵攻などとは考えてはいなかったのである。
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