第48話 逃走劇

 恐ろしき闇魔法によって、デンジュの部下となった石之助とアギの二人、この三人の主従関係は後に崩壊するのだが、それは少し後の話である。


 「おい、石之助、そういえば、メリュカさんはどこにいるの?」


 「はい、メリュカさんは危険なんで、ここから離れた所でサンディと待機してます」


 「そうか、じゃあ其処まで、案内してもらおうかな」


 「承知しました!では、先に行きますので着いて来てください」


 石之助は体をまん丸く変型させると、コロコロと荒野を転がり、メリュカの待機する場所へ向かった。

 

 一時間程進むと、綺麗な浜辺の小さな洞窟へ到着した。


「此処です、この洞窟の奥で待っています」

 

 「石之助、ありがとう。じゃあ俺は中に入るけど、二人はここで待っていてくれ」


 「あっ、すみませんデンジュさん、僕、この後、時間制限でカタカに戻らないといけないんですが、帰っても大丈夫ですか?」


 アギはどうしても変更出来ない予定なので、意を決して伝えた。

 

 「うーん、強制送還だもんな、こればかりは仕方ないか。でもすぐ戻って来いよ、石之助一人だと何かと大変だからな」


 「はい!勿論!すぐ戻ります」


 アギは心底嬉しいのを悟られるにように、笑顔を押し殺し、真面目な顔で答えた。


 デンジュにとって、この優しさが間違いだった。

 信じれども裏切られ、主君とは、なんとも孤独か…


 「じゃあ、二人は誰も入って来ない様に見張ってて」


 「はい!」


 二人はデンジュが洞窟に入ったのを確認すると、ひそひそと話し始めた。


 「石之助君、逃げよう!今しか無い、このチャンスを逃したらもう一生自由は無い」


 「ダメだよアギ君、勝手にそんな…契約上、懲戒免職処分もありえるよ。メリュカさんも気になるし」


 「何言ってるんだ!このままドメイルにいたら僕たちの人生は終わったも同然だよ!な、分かるだろう、僕と一緒にカタカへ行こう、僕が強制帰還する時、それが最後のチャンスだよ!あんなに苦労を共にした同僚じゃないか!!」


 「………、分かった。カタカへ行くよ」


 「嗚呼、ありがとう、石之助君」


 二人にはデンジュの闇魔法によって体験した社畜生活で、強靭な絆が生まれていた。それは、社畜という劣悪な状況下に於いて、唯一手に入れた財産、真の友情という秘宝である。


 「しかし、心残りはメリュカちゃんや、デンジュとかいう奴、何をしでかすか分からん」


 「石之助君、気持ちは分かるが、今はダメだ。とてもデンジュには敵わない、カタカへ行って時が来るのを待とう。私のボスも紹介しよう、きっと力になってくれるはずだ」


 「うう。仕方ないか、メリュカちゃん、すまない。許してくれ…」


 「さ、時間だ…」


 ブッヴィー

 ヴォー

 シュンッ


 こうして、石之助とアギはカタカへと旅立ったのである。


 「わー、行っちゃった!大丈夫かな〜、デンジュ君は優しいからな〜」


 クンバは、ここまで他人事で遠くから見ているだけであったが、二人がカタカへ行った事で、安全を確保できた。であればと洞窟の入り口でデンジュを待つ事にしたのだ。


 「ムフー!デンジュ君は一体この奥でメリュカちゃんと何してるのかな???気になるなー」


 ムフフな展開であるが、どうであろうか、洞窟で身を隠すメリュカにデンジュは近付いているが…

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