第47話 ド覚醒!魔神かお前は!

 その頃、クレスタイン家の秘密基地では、すやすや眠るミュウカ達の姿があった。


 (今頃、ミュウカちゃん達は夢の中だよなー。いいなぁ、俺は時間外勤務の真っ只中、ブラック企業はこれだから…)


 何に対しての、愚痴なのか。デンジュは自分でも何故かよく分からないが、お仕事モードなのであった。


 「よーし、着いたぞ!!」


 激戦の中、飄々と現れたデンジュに石之助とアギは拍子抜けしていた。

 無理もない、先程まで生きるか死ぬかの真剣勝負で緊張感が張り詰めていたところ、突然空から、まるで強そうに見えない、パジャマ姿の男が現れたのだから。

 

 「あなたは一体?」


 「アギさんのお仲間ではないんか?これは、ややこしいことになりそうやな」


 二人はデンジュが何者なのか、それが気になる、敵か味方か?


 「あー、どうも、デンジュです。一応はクレスタイン家の関係者です、僕」


 「そうですか、では私とは敵対関係、石之助さんのお友達ですね」


 「いや、待て、わしは、この御仁ごじんについて何も知らへん。アギさんらの罠っちゅう可能性もあるやろし」


 それはそうだ、こんな状況で信じられる筈はない。デンジュは少し困ったが、力は正義である、さすれば勝てば官軍、と思い至る。

 

 しからば、二人を一気に片してしまい、話しを信じてもらうより他は無し。


 こうなれば、ここからは一瞬の出来事であった。デンジュは初めて使う魔法を以前から知っていたかの様に、ごく自然に展開、片手を突き出すと術式を発動させたのだ。

 

 「なんや!これは」


 「こ、これは夢ですか…」


 石之助、アギはその見たこともない魔法のスケールに度肝を抜かれる。


 デンジュの周りには、オーラがメラメラと激しく繊細に燃えているのが見える。

 そしてデンジュは一言と唱えるのだ。


 『日本人的社畜生活ブラックワーク スワンプ


 唱えた刹那、ほんの数秒であった。石之助とアギは頭を抱えてガクッと膝をついたのだ。


 そうなるのは、仕方あるまい。

 日本の社畜達が味わう日々の生活を、石之助とアギに仮想現実として実際に体験させたのだ。


 この場に於いては数秒の出来事でも、入社から定年までの数十年間の社畜生活。擬似体験とはいえ、この生活で平常心を保っていられる者など極一部、否、皆無であろう。


 「定年までお疲れ様、つらかったろうな。二人の気持ちは痛いほど良く分かるよ。さあ、安心して、もう自由だよ」


 この言葉に、石之助とアギは涙した。

 大の大人がである、ただの大人ではい、強く地位も名声も手に入れた超ハイスペな大人がである。

 

 デンジュはそんな二人を優しく抱きしめた。

 そして、抱きしめながら、小声でこう囁いた。

 

「再雇用でもっと働かせる追加魔法もあるけど、ここで終わりにしよう。君たちは頑張ったよ」


 その優しさと厳しさに、二人は完全に堕ちた、主従関係の確立であった。


 「わー、デンジュ君強いな、でも大賢者っていうよりは魔神だな…」

 

 遠くから見ていたクンバは、ぽろっと本音が出てしまったのであった。

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