第30話 get back to you
海上に出現した赤黒い渦巻は時間が経つと徐々に透明になって先程完全に消滅した。
そのタイミングでケイリはスッと空中へ飛んだ。
今、二人の距離は100m程の間隔であろう。
「ほう、飛べるのか、油断はできんな、アギの前例もあることだ、まずはお手並み拝見といくか」
「ほほ、では、行きましょうかな」
遠目でお互い独りごちた。
転瞬、目が見合った、それと同時に戦闘が始まったのである。
「ふんふん!」クンバはテニスボールの ファイヤーボールを2、3発投げ込んだ。
「ほほ、ふん!」ケイリもテニスボール程のファイヤーボールを2、3発投げ込んだ。
「ふー、なかなかやりそうですね」
ケイリは呟く。
「ほー、なかなかやるんじゃねーか」
クンバも呟く。
遠距離戦は武闘派のケイリもクンバも得意とはいえない、しかしある程度の魔法は使える、二人は牽制のためと力関係を測るため中距離魔法で様子を伺ったのだ。
恐らく二人は同レベルの力関係であるとお互いがお互いに感じただろう。
「俺の力がフルで使えない分ハンデがあるな、くそっ頭にくるぜ」
クンバの頭の先は真っ赤になった。
「ふふっ、頭に血がのぼっているようですね、どうやらカタカのお方は気が短い、気候がそうさせるのでしょうかなぁ、まあこちらとしては戦い易い相手ではありますがね」
ケイリは余裕だった、恐らく勝負はこの時点で決していたのだ、短気のクンバの自壊の始まりだった。
「おい、じじい俺はあまり時間がないんだ、悪いが全力でいかせてもらうぜ」
クンバは一気に仕掛けてきた、ビュンっと一瞬でケイリの目の前に来ると拳に強化魔法を付与し一発大きな挨拶をケイリの顔面目掛けて打ち込んだ。
バゴォーン!
ケイリは爆音と共に4、50mは飛ばされただろうか、しかしガードが固いケイリは全然動じない、全く無傷であった。
「おい、効いてねぇ、どうなってる…」
クンバは焦った、渾身の一発が全く効いていない、一瞬で尖った頭が真っ青に変わった。
クンバはなんとも分かり易い性格だった。
「ほほ、こんなものですか、大したことありませんね、ではこちらもいかせていただきましょう、試したいこともありますのでね」
今度はケイリがビュンとクンバに向かって行く、しかしケイリはそのままクンバを通り越して離れたところでファイヤーボールを打って牽制した。
何か意味があるらしいがクンバは単純な性格らしく「舐めやがって」とまた尖った頭を真っ赤にした。
感情型の悪い部分が大量放出していることにクンバは気付かない、恐ろしい程に脳味噌が無いのであろう、確かに頭は尖っている。
「ほほ、ほれほれこちらですよ」
ケイリは空中で何か描くように移動しながらファイヤーボールで牽制し手招きしてはクンバをあちらこちらに誘導している。
クンバはケイリの策に対して何も気付かない様子でされるがまま挑発にまんまと乗ってしまっている。
お
「ほほ、よし、これで描き終わりましたかな」
ケイリはそう言って一旦止まった。
「おい、じじい、いい加減にしろよ、そろそろ決着つけようじゃねぇか」
クンバの怒りはピークだった、我慢が出来ないタイプは知らず知らず自ら負けに向かい自滅することが多いがクンバはまさに典型だった。
「そうですな」一言返事をするとケイリは目を閉じて両手で祈りのポーズを取ると、低いバスの声だが抜けのいい
『遠き昔に奪われし心
決して無にならず
今
「「「
その直後、魔法陣が展開、ブォーンっという中低域の周波数が大音量で発生し魔法陣の中心に置かれたクンバの体をブルブルと振動させた。
「お、おい、じ、じじい!な、何しやがった!」
「ほほほ、なんでしょうな、しかし其れは貴方が一番望んでいたことであるかもしれませんな、ふむ、長い間閉ざされていたところ故、扉が開くまでには時間かかるでしょう、そこでゆっくり待っておいてくだされ、そろそろお嬢様達が来るでしょうからな」
「じじい、てめぇ…一体何者だ」
「ほほ、やっと聞いてくれましたか、私はクレスタイン家の執事ケイリと申します」
「なっ、ク、クレスタイン…」
クンバの表情が一瞬で凍りついた、しくじった、その一心だった、カタカでもドメイルの情報はある、しかしドメイルから帰還できるものはゼロ、ならばなぜクレスタインの名を知っているのか?それはまた後の機会に語るとして…
クンバは崩れ落ちた、もう何も語らず、観念した様子だった。
「ほほ、さすがクレスタイン家はカタカでも有名らしいですな、後はお嬢様がデンジュ殿を連れてくれば一件落着ですかなぁ」
ブゥオン
ブゥオン
グゥシュー
ジュワォアー
空間の
「ふ、噂をすれば、なんとやらですな」
「ケイリお待たせー!」
「じいさん、待たせたな」
見違える程逞しくなったデンジュとミュウカが到着したのであった。
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