第28話 準備

 一方南国では戦闘が始まっていた。


 バシバシと絶え間なく犬男子、猫男子が噛みつき、引っ掻きなど単純素朴な攻撃を仕掛ける、暫く様子見のケイリは防戦態勢でガードの隙間からまじまじと相手の力量を計っていた。

 

 全員分の能力ちからを見計らったケイリは両手に装着したガントレットに微量の魔力を流し込むとガチッと拳と拳を合わせて「ほほ、行きますよ!」と一言発して一旦構えると左足で地面を蹴り込んで男子諸君に飛びかかった。


 次の瞬間。


 ドォゴン!

 バァゴン!

 

 激烈な音と共に男子達はビーチに次々倒れると、か弱き声でワーン、ニャーンと鳴く始末、戦闘不能であった。


 「ふっ、大したことありませんね、もう少し骨のある男子諸君かと思いましたが、暫くそうやって日を浴びて自分の不甲斐なさを反省することですね、まったく近頃の男子は情けない」


 ケイリは倒れ込んだ男子達を眺めた助けるでもなくタダ傍観する、ツイノキだけが彼らを救える手段なのである。

 これ以上何もできないだからこそ逃走は見逃すまいと鋭い目つきのまま腕組みをしているとガントレットに内蔵された通話機器からピーピーという受信音が鳴った。


 「ケイリ!大丈夫?」

 

 ミュウカの溌剌はつらつとした声にケイリは目を細め勝利の余韻に浸る、然し其の余裕はすぐさま打ち砕かれることになるのである。


 「ほほ、大丈夫ですよ、ほれこの通りでございます」


 ケイリはガントレットに付いたカメラで状況を映し出した、

 

 「わぁー、犬さん猫さんがたくさん居たんだね、さすがケイリね!あと少しかかりそうだけど終わったらすぐにそっちに向かうからもう少し待っててね」


 ミュウカの安穏あんのんな態度に黙って居られない男がひとりいた。


 「じいさん聞こえるか?俺たちが行くまで絶対に持ち堪えろよ」


 「ほほ此れはデンジュ様、何やら物騒なご様子で…承知しましたが何から持ち堪えろと?」


 「クンバって怪物さ、カタカの幹部なんだけどそいつがドメイルにやってくるんだ、しかもケイリの今居るあたりにね、細かいことは後で話すけどクンバはアギってやつと同じくらい強いと思うぜ、じいさん大丈夫か?」

 

 「ほほ、そうですか…、では例のアレがうまくいったようですな…」


 「おーい、じいさん、答えになってないぜ、でも、アレがうまくいったのは間違いないよ但しまだまだ使い方もどんな機能ちからがあるのかもよくわからないから期待しすぎるなよ」


 「ほっほ、これはこれは弱気なこと言うのですね、デンジュさんには男気を感じていたのですが私の勘違いだったようですなぁ、それでは私はクンバとやらを懲らしめておけばいいということですな、どうも近頃は骨のある者に出合いませんから退屈していたところです丁度良い相手が向こうから来てくれるとはなんともありがたい」


 「ま、せいぜい頑張れよ、あ、それとクンバはもうすぐそこまで来てるみたいだから準備しておけよ」


 「もう二人とも仲良くして!そういうことだからケイリ少しの間お願いね、デンジュさんもそろそろ再開しますから準備してください」

 

 「ケイリさん頑張れー!」


 急に声音と映像が変わったのは、ミュウカとデンジュを遮りカメラに向かって手を振る褐色の肌の少年の仕業だった。


 「ほほ、これはルタ殿、基地に来てくれたようですな、でなければデンジュ様はごみ屑のままでしたかハハハっ、これほど若者に頼られるのもたまには悪くないというもの、なにやら禍々しい気配もしてきたことですし通信はここで切りますぞ、お嬢様達も気を抜かずに最後までやり遂げてくださいそれでは…」


 ツーっと通話は途切れた、途端に基地はすうっと静まり地上のやけに冷たい空気が通気口を通って基地にびゅうっと入り込んできた。


 そのタイミングでミュウカは厳かな振る舞いで着ていた服をさらぁりさらぁりと脱いでいく、ほんのり頬が紅く染まり恥じらうように少し目線は下を向き全てが露わになった時芯のある声音で力強くささやいた。

 

 「いよいよですね、デンジュさんの覚醒、大賢者へのアセンション」



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