第27話 デンジュの頭の中とカタカの世界

 ザーッ

 シュワー

 シャー


 シャワーを浴びる音が聴こえる。

 すりガラス越しにゴツゴツしたシルエットが映る、すりガラス越しのそいつはキュッとシャワーを止めるとドアを開ける。


 すると湯気の立った筋骨隆々な大きな体、細く尖った頭と象のような耳、手足は毛深く尻には猿の様な尻尾が生えた異様な体をしていた。


 そいつは自分の姿を鏡に映すと暫く潤沢なナルシシズムを積極的に堪能してからニコッと笑ってシャワールームを後にした、体も拭かずに。


 どうやらここはドメイルでもトプロでもない世界、何故こんな映像が俺の頭に流れているのか理解できないが映し出されているのは間違いなくカタカの世界だろう。

 

 しかし、これは頭の中とも言えないが今はそう形容する他ないだろう、此処では俺の存在自体はないようで、ケイリの昔話を聴いている感覚とほとんど一緒だ、少し違うのはこれが現世ってこと。

 

それと見えない俺が存在して此処に居るって事実を誰かが気付いている、そんな気がするってこと。

 

 嫌な予感がする。

 

 それでも、今すぐカタカの世界を見て周りたい欲求はある、しかしどうやってもこの世界の俺は動けないようで強制的に頭の中の映像が切り替わるだけだった。

 

 暫くどこかの建物内が点々と切り替わって映し出されていたがようやっとチャンネルが合ったようで異形の者達が5名集まってテーブルを囲んでいる映像が映し出された。

 

 その中にはさっきの象耳の奴となんとあのアギもいた、どうやらこの場所でカタカの幹部会議が行われたいるらしく議案はドメイルの進攻についてのようだ。

 

 なんとなく話し合ってはいるが良い案も出ずまとまらない様子でアギと象耳が言い争っている。

 この状態で会議は膠着していたが象耳の奴が業を煮やしてドン!っとテーブルを激しく叩いた。


 「アギ!お前いつからそんな偉くなった?」


 象耳男が凄むが周りは至って冷静で意に介さない。

 アギも淡々と「いえ、偉くはありませんよ、ただクンバさんには向いていない任務と言っただけです、事実ですからね」そう言うだけだった。

 

 どうやら象耳男は『クンバ』と言うらしい。

 クンバは納得が行かない様子で、尖った頭をさすりながら、アギに向かって悪態を吐いた。

 

 「フン、二度もドメイルに行ってその度にやられて、のこのこと帰って来た奴に言われたくないね」


 ん、アギが二度やられた?

 俺が知っているのは石之助の一回だけ。

 しかしながら長い歴史の中でそんなこともあるだろう、この事はまた後でケイリにでも聴いてみよう。

 

 そんな事を考えていると、中央に座る白いマントコートの奴がぼそっとなにか言った、こいつはフードを頭まですっぽり被っていて表情はよくはわからない。

 

 だが、この白いマントコートの奴の一言でクンバ以外の者は席を立って会議室から出て行くことになったようだ。

 

 「クンバさん、ドメイルも広い、油断は禁物ですよ」


去り際にアギが言った。


 「うるせぇ、俺はアギのようにはならん、見縊るんじゃねえ、宴の準備して待ってろや!」


 クンバは啖呵を切るとアギを睨みつけた。

 そう言われたアギは睨み返すこともなく返事も何も言わずにクンバに背を向けるとドアに手を掛けた。

 

 その時俺はこれが最後のチャンスだと思いアギ以外の奴の特徴を記憶しておくべくそいつらにあだ名を付けておくことにした。

 

 まずヒトの女の体に頭は土竜もぐらの奴は土竜女もぐらおんな

 

 それとヒトの少年の体に頭は蛇の頭の奴は蛇頭少年じゃとうしょうねんとでも名付けておこう、完璧だ。


 それとクンバにアギ、この四名が幹部でその上に白いマントコートの奴、コイツは白マ..このあだ名マズいやめておこう。


 恐らくこの白いマントコートの奴がカタカの王、そんな気がする、直感。


 ここまでカタカの事が分かれば来た甲斐があったってもんだ…

来た甲斐…?


 そういえば、何故どうやって此処に来たかわからない、思い出せない、そもそも戻れるのかすら怪しい。

 

 急に俺は不安に駆られ心は動揺した、肉体が無い状態で汗など出ないはずだが冷や汗がダラっと溢れ血の気が引くのが感じられた。


 ややもすれば気絶しそうだけれども頭の中はしっかり動いてる、考える暇など全くなく強制的に映像が映し出されていることに今は感謝しよう。

 

 しかし、やっぱり現実の展開は早いもんだ、白いマントコートの奴がクンバに向かって何かやってる。


 「蛻ける擬魂と戯れの骸レストレインド セルフ


 魔法を唱えたようだ。

 すると部屋中の空気が張り詰め、空間が消滅しそうな圧縮と張り裂けそうな膨張の限界点を幾度となく光速で往来して、存在のない俺にまで重力の反発の波が押し寄せる。


 グラグラとした空間が一瞬パッとホワイトアウトして元の状態に戻るとクンバは半透明で突っ立っているだけの抜け殻になっていた。


 きっとクンバはドメイルだアギがそうだったように転送されている。


 勃然ぼつぜんとしてドメイルに戻りたい熱い思いが湧き上がってくるがどうしていいかわからない。

 直後其れを見透かしたように白いマントコートの奴が話し始めた。


 「居るんだろう?」


 何処かで聴いたことのある様な声に俺は一瞬ドキッとした、だがしかし見えるはずはないし存在が無ければどうすることもできないはずだ。


 「おい、お前見えないからって大丈夫だと思っているだろう?甘いな…」


 白いマントコートの奴はそう言って深々被ったフードを脱ぐとドスの効いた声で魔法を唱えた。


 「無石空斬ムセキクウザン


 音も無く目にも見えない無数の石の粒子が俺を貫いて行くのが分かる。

 

 こりゃやばい死ぬ…って、すぐに理解できるレベルのヤツだよこれ。

 

 でも其れより何よりも俺が信じられなかったのは白いマントコートの奴が石之助だったてことだ!


 ああ、だめだ…

 何も見えなくなる…

 走馬灯なんてでねぇし…

 フェイクニュースかよ…

 バカやろぉ


 ん…?


 パン

 パン


 「デンジュさん!」


 バチッ

 バチッ


 「起きてください!デンジュさん!」


 バシャーン


 「こらー!デンジュ起きろー!!」


 んん…なんだ…

 肩やら顔やらが痛い体全体が濡れているし…

 あれ!体ある!!


 「ハクション!!うぅ冷える」


 「やっと起きましたか、デンジュさん大丈夫ですか?」


 「まったく、デンジュとはどういう生き物なんだ!」


 目の前にはミュウカとルタが居た、良かった、安堵した俺は二人をギュッと抱きしめて泣いた、「ありがとう」って。




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