第24話 ルタ

 どんなに大変な日常でも平和な時間を気の持ちようで作れるのが我々人間である。

 そんな時間を作れたならこの基地で遊んでみてはどうだろう。

 

 此処クレスタインの秘密基地には時間を忘れて没頭できるゲームやトレーニングマシーン、本や絵画セットだったり多種多様な趣味に対応出来る様々なものが揃っている、そう此処はニートにとってのユートピア。

 

 地下にあって科学の力で採光もできるし、これなら自然派の反対もないであろう、かなり上等な地下空間である。

 

 「フンっ、フンっ」リズミカルな息遣いで毎日の日課をこなすケイリはトレーニングマシーンで筋トレをしている。

 デンジュとミュウカは楽しそうにゾンビを倒すビデオゲームに夢中になっている。

 

 カタカからの襲来は頻繁に起こるが毎日ではない、こんな時もある、ピコピコ、バンバンとゾンビを倒すことに熱中してストレスを発散するのも大事なことだ。

 

 「もう!!デンジュさん雑魚すぎです!」

 

 「仕方ないでしょ、初めてなんだから、しかもおれ、ゲームはオフラインのRPG専門だから協力プレイとか苦手だし、ていうかミュウカちゃんが強すぎるんだよ、ユーザー数1000万の全国ランキング1位ってなんですか!!強すぎて付いていけないでしょ素人じゃ!!」

 

 「そうか…デンジュさんはそうやって出来ないことに文句ばかり言って改善の努力もせず生きて来たんですね…でもね、それでもいいんですよそういう人も居るのが世界なんです、私はいつだってデンジュさんの味方ですからね!」


 「うーん、なんか複雑、なんも出来ない男が賢い女に養われてる紐感が出てしまってる、実際今がそんな環境だけど…でも元々は連れて来られてるわけだし…ああもういい、考えない!ミュウカちゃんもう一回!いや、何回でもやってやろうじゃないですか!」


 ゲームにムキになって我を忘れる様が余計にクズさを増していることにデンジュは気付いていなかった。


 デンジュはその後何度もゲームにチャレンジするものの大した成果は出なかった、そして気分だけが凹んで精神の無くなった肉体は空虚な物体と成り下がり呆然として天井を見上げた。

 その様子は行き場を無くし敗走も出来ず敵地で捕縛された軍人の明日の見えない漠然とした未来、底知れない砂塵の中からほんの小さなひと粒の希望を探し出す迄にはどうやら時間がかかりそうだ。

 

 プー

 ピー

 パー


そうこうしていると、リビングにベルが鳴った。

 ミュウカが「はーい、こちらミュウカ・クレスタイン」と返事をすると、ソファの前に設置されたセンターテーブルに褐色の肌の少年のホログラムが移し出された。


 その少年は右手を上げ「おっすー!!」と元気の良い挨拶をした。


 「あ!ルタ!!おっすー!」


 ミュウカも元気に右手を上げおっすーを返した。

 

「久しぶりミュウカ元気そうだね!」


 「うん元気!ルタも元気そうだね!」


 「うん、まぁ元気は元気なんだけど、ちょっとね」


 「えっ、なにその含みは、なにか気になることがあるの?」


 「うん、いや、まぁ、その、あれだよ、とうとう来ちゃったんだ、そろそろかなぁって思ってはいたんだよね、僕が生まれた時から聞かされてたことだから覚悟はしてるんだけどさ、もうわかるでしょ?」


 ルタは全てを言いたくないようで視線が定まらずもじもじとしている。


 「えっ、あれって、アレのこと?そっかー!とうとう来たかー!」


 「そうだよ!もう恥ずかしいからあんまり長引かせるなよぉ」


 二人の会話を黙って聞いていたデンジュが「アレってなんですかぁ〜?」とぼそっと話しに割って入ると、ルタは「うわっ!!誰この人!」と床に倒れて憔悴のていのデンジュに驚いた。


 「あっそうだった、まだ紹介してなかったね!えーと、このお方は、なんと、私の初めての人であり最後の人で、今後大賢者様になるデンジュさんです!」


 「ぁ、デンジュです、どうも」


 ミュウカの自慢気な紹介と無気力なデンジュの名乗りにルタは呆気にとられポカンとしてしまった。


 静まった基地に「フンっ!あー、フンっ!」ガタン!ガシャン!とケイリが筋トレに勤しむ音がこだまするのだった。

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