第13話 拡張

 ドォウゥン!!!


 デンジュはメリュカ達の世界から一瞬にして現実へ戻されたようで、目の前は基地の中に変わっていた、トリップしてどれくらい経ったろうか、テーブルのコーヒーは冷めてしまっている。


 「あれっ?戻ってるな」


 「ふむ、戻りましたな、お疲れでしょう、これをお召し上がりください」


 さっと出された親指程のチョコを口の中で溶かし、疲れた脳へエネルギーを送り、残ったコーヒーも飲み干すという真夜中の背徳。

 しかし、ティ助やまめふ君の煎れたお茶とコーヒーは冷めてもやはり美味しい、こういうところが人気の理由なのであろう。


 「なぁ、ケイリのじいさん、これってトリップしてる時の間は俺たちどうなってるの?」


 「ほほ、気付きましたか、ご安心くだされ、語る側は現実から離れることなく聞き手のみがトリップする仕組みで、語り手が話しを止めればトリップもそこで終了になります」


 「じゃあおれだけ夢の中なわけか、しかしすごいな、話しの中に入り込んで行ける魔法ってことだもんな」


 「はは、左様でございますな、この魔法は古代魔法、今では私とエストしか使えません、この物語を語るためだけに作られたのでございますよ」


 「作られた古代魔法ね、気になるな、一体誰が作ったのさ?」


 「ふぉふぉっ、これはこれは、この後わかりますからなぁ、焦らずお待ちくだされ」


 「そうだな、まだまだたっぷり時間はあるし、少し話しは長そうだけどここまで来たら引き返せないしな」


 「ほう、意外にも聞き分けが良いのですねぇ、とはいえ今日はもう随分と夜も深くなりました、また明日にいたしましょう」


 「一言多いっつーの、ま、いいけどさ、確かにいい時間だし、なんだか眠くなってきたし、さてさてミュウカちゃんの寝顔を見てから寝るとしますかな」


 「あまり、悪さはしてはいけませんぞ、ほっほ、若さとは良いものですな」


 「ああ、おれも今日はすぐ寝るよ」


 表向きは注意するものの二人の関係をケイリは完全に否定はしない、寧ろ微笑ましく想っている、デンジュもそれはなんとなくわかっていて悪態をつかれても本心で怒ることはない。


 デンジュはケイリと別れると、ミュウカの寝室へ向かった、静かにドアを開けて、すやすや眠るミュウカの寝顔を見つめ、優しく頭を何度か撫でてからゆっくりドアを閉めた。

 そして、自分の部屋に戻ると何かにいざなわれるようにすっと眠りについたのである。


 目まぐるしくも穏やかだったこの日、睡眠時の超無意識下に於いて、時間の遡行によって未知なる世界の小片に触れた意識が拡張された。

 その新たな意識領域が今後デンジュの身体に変化を与えることになるのだが、今はまだ知る由もない…

 ただひとつ、暗闇の中で、左手のリングはキラッと輝いた。

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