第12話 クレスタイン家の裏話 その2の3

 ...しーん、と静まり少し肌寒く感じる、時よりどこからか水滴の落ちる音が聞こえる、洞窟内は暗い、入り口からしばらく歩くと光が届かない漆黒の闇に包まれた。

 やはりというか、当然というか、此処でも石之助の能力が存分に発揮されるのである。


 「これでどうや?」


 「わー眩しい!えー、すごい、どうやってるんですか?」


 「これなー、ええやろ光るんや!」


 石之助の頭部からはチョウチンアンコウのような誘引突起がニョキニョキ生え(柔らかい)、先端の大人の握りこぶし程度のエスカの様な部分が光源(松明3本くらいの熱量)になり洞窟内を照らした、明るさは申し分ないが、石之助曰く、2時間程で強制的に消灯しその後1日は使えなくなる、らしく、狭い洞窟内での移動が困難なサンディは入り口に戻し待機させ、先を急ぐべくメリュカと石之助だけで洞窟を進むこととなった。


 「メリュカちゃん、大丈夫か?」


 「ええ、なんとか大丈夫です、足元が濡れている割には歩きやすいです」


 「無理せんといてな、時間内に戻れなそうならすぐ引き返すで、ええな?」


 「はい、でも絶対に辿り着きますよ、胸の中のボーッていう感覚、強くなってるからきっとあと少しで声の主に会えるはずです!」


 「そりゃ、心強いで!ならわしも気張ってもっと照らしたるでー!」


 「ええー!!大丈夫ですー、石之助さん無茶しないでくださいー」


 「どや!明るさマックス、お天道様もびっくりの石之助ライトニングやで!!」


 「きゃー、眩しいー!石之助さーん!ほんとにやめて!!」


 「おー、こりゃすまん、すまんね、やりすぎてしもうたわ!」


 「もう、今度勝手にやったらただじゃおかないですから!」


 「うっ、えらいごめんなさい、いあ、あれっ、メリュカちゃん、そこ、あそこ見てみ!なんか横穴あんで!」


 「え、あっ、本当ですね!うわぁ、しかもすごく綺麗に舗装されてますね、道もそうですけど壁も綺麗にしてあって、所々に模様の様な…絵のような…なんでしょうね??」


 「そやな、おそらくやで、えらい昔に山の種族独自の文字があるらしいって耳にしたことがあるんや、それや思うんよ、でも山だけやなく他の種族にも文字はあるらしいねん、だからこれがどの種族の文字なのかは正直分からへん、わしは専ら語り専門でやってきて文字には疎いしな」


 「ふむむ、なかなかに奥が深い世界だったのですね...私…いや、私達人間だけが文化や文明を持っていると思っていました、反省です…」


 「しゃーない、しゃーない、メリュカちゃんとこは最近此処へ来たんやろ?知らん方が普通や、こうゆんは長〜くそこにおったもんが勝ちなだけや、気にせんでええ、ほな行こか!」


 「うぇーん、石之助さんありがとう、元気出ました」


 気張った石之助の力なのか、そうでないのか分からぬが、なにかあるであろう感じの明かに誰かの手で舗装された横穴を発見し突き進む。

 光に照らされた壁面の絵文字は彫られた溝に陰影ができ、時折ざわざわして見える、その内に今度は揺らめき躍り出し、まるでメリュカの来訪を喜んでいるようだった。


 「なんや道も狭くなってきたな、このまま狭まっていけば、この先進めんようになるで」


 「石之助さん、大丈夫ご心配なさらず、もう着きますから」


 「お!なんか感じるんやね!こりゃ頼もしいで」


 「そうですね…多分この辺りなんですけど…」


 そうぼそっと言うとメリュカは壁面をトントンと叩き始めた、壁一面に刻まれた文字をここでもないあそこでもないとトントン。

 残すは石之助の後ろの辺りだけ、最後の最後、山の向こうから太陽が昇りその光景に向かって跪く男の姿を刻んだ文字の所をトンっと叩くと。


グゥワヴァンゥンンン!!


 轟音と共に壁は一気に崩れさった、崩れた壁の向こう側に広がっていたのは夏虫色に淡く輝く湖と緑がかった壁や天井で作られた神秘的な空間であった。


 「わー、キレイ…」


 「そやね…」


 二人はあまりの美しい光景にしばらく佇むことしかできずにいたのであるが、湖の真ん中辺りから幅の狭い大きな波紋が生まれたのを見つけ我に帰った。


 「メリュカちゃん、なんや大きな波紋ができてきたで、これはやばいやつちゃうかな、わし、えらい悪い予感すんのやけど」


 「ふぅ、そ、そのようです、む、胸の鼓動がすごく、は、早くなってきて、大きな炎が燃えているよう、です」


 ポコ

 ポコポコ

 コポポコ

 ボコ

 ボコボコ

 ゴボボゴ


 矢継ぎ早に湖の底から小さなあぶくが次々と出現しさらにはどんどんと大きなあぶくになっていく。


 「ええ、えぇ、なんや次はなんや、えらい大きなあぶくになって来てるで!えらい近づいてるんちゃうか、なぁ?メリュカちゃん、なぁ?」


 「は、はい、い、石之助さん、気をつけてください、も、もう来ます、ほ、ほらそこに」


 ザヴォゥオンゥッン!!!!!


 大きな音と水しぶきを上げ、湖の中から薄緑色の肌をした裸の人間が現れた。


 「君達か、おらの声を怖がらずに進んで来たのは」


 こちらに語りかける彼の声は、人の声とは云えぬなんとも超自然的な声音こわねで、風に揺られた木々達の枝や葉が擦れあい騒めく、様々な音が絡みあいそして解けていく、そんな儚さがあった。

 体はお相撲さんのような体型で髭はなく髪は短く整えてある、何よりも驚くのは彼は湖面に立っていたのである。


 「はぁはっ、はい、もしかして、あ、あなたが亜歩山?」


 「ああ、いかにも、おらが亜歩山だ!みんなおらのことはアブニイって言うけどな!」


 「はぁはぁ、は、はじめまして、わたしはメリュカと言います、あ、あなたに会いにここまでやってきました」


 「そうなのか、大変だったろうによく頑張ったな偉いぞ、それにしてもメリュカはすごく苦しそうだな、大丈夫か?」


 ュグラッ

 バタッ

 タッ


 アブニイが話しかけた瞬間、メリュカは崩れるように倒れ、瞬間、即座に石之助は平らな地面の上にメリュカを優しく寝かせると、声をかけた。


 「メリュカちゃん!聞こえる??あかんな、反応無いな、息はあるみたいやし脈も熱も普通やから少ししたら起きると思うねんけど、アブニイさん、どうやろ、ここで起きるまで休ませてもらってええやろうか?」


 「ああ、いいぞ、おらもメリュカが気になるしな、メリュカは具合が悪かったのか?」


 「アブニイさんありがとう、ほんま助かります、あぁそれとメリュカちゃんの具合はねここに来る前に胸の辺りがボーッとしてる言うて、アブニイさんとこ近づいていくほど感覚が強くなるゆうてね、呼吸も急がしくなっていきましたんや」


 「それはホントか?ウソじゃない?」


 「ウソやないです、ほんまですよ、なんかあるんですか?」


 少し間をあけて、アブニイはメリュカの所まで歩いて行くと


 「ああ」


 と、一言だけ言って、目を閉じ座した。

 アブニイはしばらくそのままでいると、心の準備が整ったのか、何か覚悟を決めたのか内側から抑えきれないプラーナを纏いゆっくりと目を開けた、開眼したのか解脱感漂うアブニイはやんわりとメリュカの着ていた上着を脱がし、ツンとして張りのあるオッパイをスッと大きな手のひらに収めると再び目を閉じて両手で揉みしだき始めた、その姿は川が海に流れ雨になり再び川から海へと循環するが如く超自然的な光景のようでいやらしさは感じられない。


 「アブニイさん!あかん!なにやっとんねん!!」


 しかし、アブニイは聞く耳を持たない。


 「やめ!やめ言うてんねん!!」


 しかし、アブニイは聞く耳を持たない。


 「もう、あかん、いくらアブニイさんでも許されへんことがあるいうの教えたる、わしかてええかげん怒るで!!」


 それでもアブニイはオッパイを揉み続けた、するとメリュカは少し気が戻ったのか生暖かい湿度を含んだ声で微かに喘ぎ始めた。


 「ああイッ、イ、は、はふぅ」


 アブニイが一揉み二揉み三揉みとオッパイを揉むごとにメリュカの声は少しずつ大きくなり、ついには洞窟内に響き渡るほど大きくなっていた。


 「メリュカちゃん…わし見てられへん、でも二人きりにはさせられへんし、アブニイさんはなにがしたいねん…」


 石之助はメリュカの声に躊躇したが、メリュカの身を案じなんとか気持ちを持ち直して、このまま事の成行に身を任せる事にしたのであった。


 「メリュカ、そろそろ来る、おらわかる、来る、来るのがわかる、おらのとこ来い、来い」


 「はぁ、はっ、はぁ、はふぅあーーーっ、ひ、ひゃぁはー、ははっひーぃぃ、あ、あ、ぁぁ、いあああああーーーーー」


ドヴォッシィー!!!

ビュショーゥン!!!


 絶頂を迎えたメリュカの乳房から天井まで届くほどの大量のミルクが勢いよく飛び出した。 

 そしてそのミルクは湖の中に落ちて混ざり合い湖は淡い緑の乳白色の水になったのである。


 「おらこれ待ってた、やっと終われるありがとうメリュカ、ありがとう」


 アブニイはそう言うと、オッパイについたミルクを舐めて綺麗にすると、オッパイに対して合掌をした、脱がせた服を着せた後、メリュカを抱き抱えて石之助の脇に寄り掛かるようにおろして自分は元いた湖面の真ん中辺りへ戻って行った。


 「アブニイさん、これからどうすんのや?えらい神妙な顔してますけど」


 「確か石之助と言ったね、おらこれから活動停止するんだ」


 「かっ、活動停止って、アブニイさん、まさか…」


 「ああ、でも怖がる事はないよ、ずっと長い間、途方も無い時間ここで祈っていたんだ、もう疲れてしまった、さすがのおらも限界だ」


 ざぁっっ

 ざっぶーんぶちょうわぁー


 そう言ってアブニイは湖の中に潜って行ってしまった。


 「あかん!アブニイさんまだ死んだらあかんよー!!!」


 石之助は飛び出して行きたいがメリュカが心配でどうすることも出来ず我慢せざるを得ない、抑えられず地団駄を踏んで騒がしくしているとメリュカの意識が戻ったようでゆっくりと話し始めた。


 「石之助さん、どうしたんですか?何かドンドンと騒がしいですけど」


 「メリュカちゃん!!よかった!意識戻ったんやねー、わし嬉しいわ、どうやどこか気分悪くないか?」


 「うーん、何故だか胸がベタついてるみたいですけど、それ以外は問題ないです、息苦しさも胸の中のボーッとした感覚も無くなってますし」


 「そうか、そうか、ほんまよかった、あとな、なんか覚えてないか?それならその方がええねんけど」


 「ん?何も覚えてないですよ、あ、そういえば!」


 石之助は記憶が無いことに胸を撫で下ろし、メリュカは立ち上がりキョロキョロと周りを見回した。


 「そういえばアブニイはどこに行ったのですか?見当たらないですけど?」


 「うーん、それなぁ、なんといえばいいのか、湖の中に潜ってしもうてな、それっきりやねん」


 「え、大丈夫かな…死んだりしないですよね?元々湖から出てきたし…湖の色変わったのもその影響なんですか?」


 「うーん、どうやろわしにも分からんのや、湖の色は色々あってん、そのせいで...な、アブニイさんの趣味みたいなもんや、それでな」


 「心配です、せっかく会えたのにこのまま会えなくなるなんて、これからまだまだ聞きたいこと山ほどあるのに、どうにかならないですか石之助さん!」


 メリュカの勢いに石之助はたじろぎ、まごまごとするだけで良いアイデアは出てこない。 

 少し言い過ぎたのを察したメリュカは湖を見ながらこの場が落ち着くのを待つことにした。

 二人ともしばらく会話を止めると、改めてここは元々湖以外には何も無い場所、当然なのであるが静寂な時が流れるだけで他には何もないのだと感じる。

 この場所にアブニイ独りでは煢然けいぜんとも云えるし神秘的とも云える、長らく塞ぎ込んでいたメリュカはきっとアブニイも自分と同じように孤独で寂しいことが習慣化され侘しさ自体に気付かない状態なのであろうと感覚的に悟り憐情を覚えたのである。


 プス

 ゴボ

 ボコッ

 ボコボコ

 ボコボコボコボコッ


 突然、湖からあぶくが上がり永遠に続きそうな静寂と先の見えない重苦しい空気を打ち破った。


 「やっとや!この流れはアブニイさんやで!」


 「ですね!私もそう思います、でもなんでしょうこの辺りさっきより温度が上がっていませんか?」


 「ほんまやな、確かに暖かくなってるな」


 「なんでしょうね、嫌な感じはしないので心配しなくても平気だとは思いますけど」


 「そやな、待つしかないな」


 二人はボコボコとあぶくの上がる湖面を見つめ、きっと戻って来るであろうアブニイをじっと待つのであった。

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