第8話 三つの世界

 見渡せる範囲全ての粒子が薄く紅い。

 黙っているだけ、ここではもう何も起きないので二人の時間は只々過ぎるままに過ぎてしまう。


ジーッ

ジー

チーン

チーィッ


 二人の間に拍子抜けした着信音が響き、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。


 「お嬢様、どうですかな?御無事でしょうかな?」


 モニターも無い空中に気付けば何か映し出されている、ケイリであった。


 「お嬢様聞こえているのはわかっておりますぞ、なにか返事の出来ないことでもございますかな?」


 「うーん、もう!!!意地悪しないで!全部知ってるんでしょ!あー、恥ずかしい、、、」


 ミュウカはこの状態を見られて諦めの雰囲気である。


 「おいおい、ケイ…いや、じいさん、あんたね、事の成り行きをこっそり見てたって事かい?そりゃ若い二人の情事に興味をお持ちの事とは思いますがね、盗み見はどうかと思いますわな〜、、、」


 「ふぉふぉっ、おおこれはデンジュさんでしたかな、別にあなた様を見ていた訳ではございません、私目はミュウカお嬢様を見守っておりましたので、先程の小物ごときに怖気付き尻込みしているどこぞの小心者には興味は微塵もございません故にご安心くださいませ」


 この様な生産性も何もない意地の張り合いの様な会話が少し続いた後、言ってみたら仕事モードに落ち着いた三人は今回の件がなぜ起きたのか分析のために基地に戻った。


ブゥーン

ブーッ

ウィンッ


 ある程度の空間、安全圏を確保できればホームやポイントに設定した場所に転送される、素粒子化でのワープ音が地下に響いた。


 「ゴホン、ではお嬢様始めましょうか」


 テーブルを囲んだ三人は今日の出来事について会議を始めた、やはり口火を切ったのはデンジュだった。


 「まずは、聞きたい、あいつらなんなんだ?絶対に俺達とは別の生き物だよね??」


 「はい、デンジュさんの言う通り、私達とは本来生きる世界が違う者、異界の民です」


 「ということは、おれの世界も別の世界、あいつらの世界も別の世界、この世界も別の世界、世界は3つあるってこと?」


 「はい、今のところ往来が可能な世界はその3つです、ですがその3つの世界以外にも世界あるはずなのです、それはツイノキによって旅だったもの達が行き着く世界、少なくともあとひとつは必ずあると考えられます」


 一旦間が空いた、湯呑み茶碗に緑茶が注ぎ足される、自動茶汲みロボ『ティ助』が注ぐお茶は和む、ロボは無我で茶を注ぐ、思い入れの無い分すっきりとした気分のひと時を与えてくれる、茶道家が選ぶ茶汲みロボ部門不動の一位であった。


ズズ

ズズッー


 「ふぅ、いいお茶でございます」


 ケイリは和んでいる。


 「おいおい、じいさん、何和んでんのよ!この世界にやばいもんやってきてるのに余裕だね!」


 「そうですな、確かに目に見えて危険そうなお方がすぐそこに居りますね、これは今すぐに懲らしめておくべきですかな、さささ、お嬢様は危険ですのでお下がりください」


 「もう!!!二人とも喧嘩しないの!!子供じゃないんだから、今は真剣に話し合う時よ、それにはまずデンジュさんにこの世界の事、他の世界の事を教えてあげないといけないんだから、ケイリもしっかり協力してよね!」


 「ふぉっ、ふぉ、そうですな、これは大変失礼致しました」


 デンジュは自分の生まれた世界、この世界、他の世界の事について説明をされたことで今起きている現実が作りものでなく人生の一部として自分の歴史になって行くことに少しドキドキしてきた。


 「うーん、なんとなく理解できたけど、つまりこの世界が基点の世界で他の世界はこの世界から派生した世界ってことと、派生した二つの世界、おれの住んでいる世界こっちで言うところの『トプロ』ともう一つの世界『カタカ』、この基点の世界が『ドメイル』、それぞれの世界空間が圧迫し潰さんする程に膨張、成長してそれぞれの空間の狭間は共に反発、こすれ合い、エネルギーの行き場が無くなり限界まで蓄積されて暴発するか。エネルギーが全てを埋め尽くして包みこんだ存在自体が消えて無くなる。と、ミュウカのお母さん『ユルネ』がそう予見してていること。膨張の影響なのか、数十年前からゆがんだ時空から扉が現れる様になり本来交わってはならない基点の世界と他の世界が繋がったこと、カタカの住人はこっちの世界を破壊して暴発か消滅を防ぎたいってことで今日の出来事に繋がると…」


 「ええ、大体の流れはその様になっています、今のところデンジュさんの元居た世界トプロとカタカに門はなく、このドメイルとだけ繋がっています、軸であるドメイルだけが両方と繋がっている状態なのです」


 「だとすると、直接の繋がりはないけどドメイル経由でトプロにカタカが侵攻してくる可能性もあるってこと?」


 「はい、それは無いとは言えませんが、現状ではトプロ行きの門が現れる場所を知る者は私とケイリ、その他に二名の協力者のみになっています。わたし達以外ではまだトプロへ行ける者はいないはずです。そしてカタカの住民はトプロの存在は認知していないとも聞いています」


 デンジュはこの世界の事をリアルに感じることができた、自我を持つ誰しもが説明出来ない物事の多さを知っている、でもそれを本気で調べたり解明したりする作業を行うことは殆どない、デンジュはこの説明不可な現状を理解しようなんて思わないし、例え考えたところでいい答えなんて見つからないだろうと直感している。

 迷いは消えて全て受け入れる事を選択して得た、爽快な気分を持って事に当たるだけなのであった。


 「ほほ、それでは、そろそろデンジュ様にはこの世のかげを知っていただきましょうか...」


 悪い含みのある声音こわね、ケイリの表情(かお)に二人の影が交差して果てない闇が籠もっていた。

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