第4話 基地でのひと時

 「デンジュさん、着きましたよ」


 「ああ、よかった、体が戻ってる」


 「ふふっ、すぐ慣れますよ、ここでは普通のことですから」


 「それにしても、秘密基地っていうから暗くて陰気な場所を想像してたけど、明るいし空気も美味しくてすごい住みやすそうだね」


 「えっへん!そうでしょう、ここが当家自慢の秘密の地下空間施設ですからね」


 「ほほ、お帰りなさいませ、ミュウカお嬢様」


 得意気なミュウカを制すように現れたのは、少ししゃがれた声の老齢な男、執事らしい。


 「ただいま、ケイリ!」

 

 「早速ですが、お嬢様、そちらのお方が例の大賢者様ですかな?」


 「そう、この方が大賢者デンジュさんよ、正確にはこれから大賢者になるんだけどね」


 「ほほ、そうですか、ではひとつご挨拶でも…エイっ!」


 ビュンッ


 ケイリは側にあった熊さん箸置きをデンジュ目掛けて投げつけた。


 バシッィン


 「いてぇーい!!!何すんだよ急に!!」


 しかしデンジュはそれを右手でなぎ払った、箸置きは床に転げ落ちている。


 「ふむ、なかなか筋はいいようですな、突然のご無礼失礼致しました。」


 「もぉやめて、ケイリってば、急にそんなことしないで!デンジュさんお怪我はないですか?」


 「うん、大丈夫だけど、このじいさん大丈夫?怖いんですけど」


 「本当にすみません、ケイリはとても優秀な執事なんですが、少しわたしに甘すぎるというか過保護というか、、わたしの為とあらば見境がなくて…」


 ミュウカは困った表情でデンジュを見つめた、悪気は無いことを察して欲しそうだった。


 「これはこれはデンジュ様でしたかな、申し遅れましてすみません、わたくしはミュウカお嬢様の教育係兼クレスタイン家執事のケイリと申します、どうぞよろしくお願いいたします」


 「ああ、こちらこそ、改めてだけど俺はヒノノベ デンジュだよろしくな、ケイリさん」


 そう言ってふたりは握手をした、が、お互いどうもウマが合わないようで己の持てる握力全てを使った握力合戦が始まった、それは大体90分くらい続いて最終的にデンジュに軍配が上がった。


 「ふたりとも終わった?」


 ミュウカはそんな二人に呆れてしまい、お風呂に入って部屋着に着替え、ソファに寝転んでマンガを読んでいた。

 充実したお部屋時間を過ごしていたのである。


 「ふぅ、なかなかやるなじいさん!15年毎日筋トレを欠かさずに生活してきた俺とここまでやりあえるとは!」


 「ふん!わたしが5年ほど若ければあなたなど一瞬でしたよ、いやはや老いとは恐ろしいものですな、しかしながら、わたしは本来左利きですので今回は半分負けただけです」


 「おう、やってやるよじいさん!今すぐ左手出しやがれ!」


 ふたりの戦いは意地の張り合い、一体なんの意地かすらもわからないが、とにかくこいつには負けたくないという気持ちが沸沸湧くらしい、そんなふたりの右手はパンパンに腫れて頭より大きくなっていた。


 「ちょっとふたりとも、もうやめて!」

 

 「ごめん、いくらミュウカちゃんの頼みでも、これだけは譲れない、そういう戦いなんだ」

 

 「申し訳ございませんがミュウカお嬢様、私目もこれだけは聞き受けられませぬ、許してくだされ」

 

 「もうっ!バカ!ふたりともこれから何をするべきなのか?これから何をどうすればこの世界を救えるのか?それが一番の問題でしょ?よく考えてよ。ていうか、ふたりとも私の知っているふたりじゃない…キャラが崩壊してる、こんなことじゃお母さまとの約束を果たせるのか不安になっちゃうよ…」


 ミュウカの憂慮は今後も尽きそうに無いが、一先ず、ふたりは休戦した。

 一息つくと、この世界の事や、デンジュの世界の事、クレスタイン家の事、などなど、夜の深い時間まで話しは続いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る