第4話 透子の安否

 2度目の美術教室は、薄暗さと不気味さが増しているように感じた。あんなことがあっだんだ。怖いに決まっている。

 どこか静かなこの場所の、絵の中に姉がいるのか。やっぱり信じられない。


「気をつけろよ。いつどっから出てくるか分かんねえからな。」


 布都先輩に言われ、あたりを見回しながら歩く。

 ふと、視界に入った絵画に目を奪われた。瞬間、ものすごい勢いであの腕が私に向かって伸びてきた。


「きゃっ!」


 しかし私の周りを薄い紫の幕が開いた。よくみると胸元のお守りが光っている。布都先輩がくれたお守りが私を守ってくれたらしい。


「チンタラしてんなー!走って腕から逃げ回ってろ。俺からもほどほどに離れんなよ!守りきれねえからー!」


 なんと難しい注文をしてくれる。でも捕まりたくないから言うことを聞くしかない。

 ひたすらお守りと布都先輩を信じて走り回った。


 布都先輩は、あの筆のようなものを持ちながら腕が生えてる絵に向かって走っていく。


「あらまあ、こっちがガラ空きだ!」


 余裕の笑みを浮かべながら、絵を筆で撫でる。すると、腕がみるみるうちに小さくなっていく。布都先輩を攻撃する腕たちだったが、軽く筆であしらわれ、最後には消えてしまった。


「この絵に取り憑いたのがお前の間違いだ。くそったれ。」


 すると、壁に掛けられた絵は、最初に見た時とは少し違う絵になっていた。


「お姉ちゃん!」


「大丈夫。気を失ってるだけだ。神社に戻って御子みこに見せれば問題ねえ。」


 絵の下に倒れる姉に駆け寄る。気絶しているだけで、脈はあった。よかった。ちゃんと帰ってきてくれた。


 布都先輩が姉を担いで、神社へと戻る。


「どうしてあの絵を治せたんですか?そもそも治すってどういうことなのでしょうか」


 ふと、気になることを聞いてみた。治すってことは元の絵が存在するということになる。布都先輩が元の絵を知っていない限りは元には戻せないはず。


「…あの絵はもともと俺が書いたもんだ。だから元の絵を知っていた。まあ、知らなくてもこの筆が元の絵を知ってるから治せるんだけどな。ただ、俺が知ってるか知らないかで力を使う加減が変わる。」


 布都先輩と絵取り主様のことは詳しくは分からなかったけど、透子を助けてくれたいい人だったことは分かった。


 都市伝説が本物だったりするくらいなら、人も見た目が全てじゃないなと、綾は1人思っていた。

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