第6話 暴走

『なら、来人にいるワタクシの精神は一体……』

「あぁ、でも貴方様はサイハ様の精神だと思います。波動は同じですから……よくぞご無事でいてくださいました」


 リンランが丁寧に俺にお辞儀する……正確にはサイハ(精神)に対してだろうが。


『なら、どうやって女の精神を戻すつもりじゃ?』

「禁忌のスティマがなくなればよいかと……」


 リンランはルルガ(精神)の質問にも答えていた。

 となると、あとは禁忌のスティマを消せば問題は解決するのだろうか?

 俺はサイハ(偽物)の身体に近づき、禁忌のスティマに手を当てた。

 すると――、


――キンッ!


 今まで動かなかったサイハ(偽物)が動き出し、俺の身体を回転させた。


「「「なっ――」」」


 これには全員驚いた。サイハ(偽物)の自我が抵抗しているということだろうか?

 俺はそのまま床に組み伏せられ、身動きができない。


「サイハ様っ!」


 リンランがサイハ(偽物)の身体に掴みかかる。

 だがサイハ(偽物)の禁忌のスティマが光ると、そこを中心に衝撃が走った。


――ドン!!!


 リンランは部屋の壁に叩きつけられ、気を失う。

 俺は衝撃波をまともに受け、暫く息ができない。

 すると、ルルガ(精神)が俺の代わりに叫んだ。


『雷神体!!!』


 俺の身体が金色の光に包まれる。俺はサイハ(偽物)の腕を振り払い、体勢を立て直す。


『来人! くるわっ!』


 サイハ(精神)が俺に警告する。

 次の瞬間、俺の身体に何倍もの重力付加がかかった。


『精神干渉よ! リンランより強いっ! 相殺……できないっ!』


 俺の身体の動きが一気に鈍くなる。

 その間、サイハ(偽物)が俺に掴みかかる。まるで合気道の動きだ。一撃一撃を手で薙ぎ払うが、攻撃を受けるごとに腕がしびれていく。


「――させるかっ」


 俺は、バク転でサイハ(偽物)と距離をとると両手に“シカラス”を構える。そしてサイハ(精神)の名を呼んだ。


「サイハっ!」

『まかせてっ!』


 俺の意図を読み取ったのか、サイハ(精神)が精神感応能力を向上させた。

 ――目の前のサイハ(偽物)の次の動きがスローモーションでみえる。あとはこの動きに対して対応できるかどうか……。

 サイハ(偽物)は俺との距離をあっという間につめ、引き続き、攻防を繰り広げる。


『来人! いつまでもこの状態は続かないぞ!』


 ルルガ(精神)が叫ぶ。

 正直、そんなことは分かってる。この攻防は俺には不利だ。多分、あの禁忌のスティマを潰せば攻撃は止まるだろう……しかし……それでは、サイハ(偽物)の身体は……


『――来人! 何、ためらってるの?! 早く、あのスティマを潰しなさい! ワタクシが死を恐れていると思うの?』


 サイハ(精神)が俺に向かって叫んだ。

 

『私たちは身体が無くなったって“死”ではないわ! 罪を犯すことが“死”なの! だから――』


 サイハ(精神)が続けてざまに俺をまくしたてる。


『来人――っ』


 ルルガ(精神)も叫ぶ。


「ちっ、伝来っ!!!」


 俺はルルガ(精神)に教わった言葉を叫んだ。

 ――刹那、激しい痛みとともに、雷を帯びた“シカラス”がサイハの胸を貫く。それは生温かく、気持ちの悪い感触だった。


『ありがと……来人』


 サイハ(精神)の声がかすかに聞こえた気がした。

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