第3話 対面

【次元際フォーラム(じげんさいフォーラム)】

 交易会議が行わる場所である。注目の会議内容は、第77次元“ゼクス”に第14次元“ヨヤ”の鉱石“メデェアム”を輸出する件らしい。


 俺は、あの騒動の2日後、次元際フォーラムに来ていた。結局、精神混在の原因は分からない。だがこのような事態は、本来あり得ないことだ。ラプチェが定めた誓約 ” 一つ、各次元に対し、不利益を生じる行為は行わないこと” にも反するのではないだろうか?

 転身庁の上層部は、俺に原因を探らせるべく、まずはこの世界の大使補佐としてサイハへの面会を命じた。もちろん、大使補佐は偽の役職である。


「さて……と」


 俺は次元際フォーラムの受付に向かった。


「あの、13時からサイハ様と打ち合わせをしに来た鳴神と申します」

「……鳴神 来人様ですね。そこのラウンジでお待ちください」


 俺は、受付の女性に案内され、受付脇のラウンジで、コーヒーを頼む。

 その間、ルルガ(精神)が、サイハ(精神)に向かって話しかける。


『おい、女。自分自身に合ってどうするつもりだ?』

『女って何よ! 精神感応で誰がワタクシの身体にいるか確かめるのよ。その目的もね』


 サイハ(精神)は、まだルルガ(精神)の物言いが気にくわないらしい。だが質問にはきちんと答えていた。


***


 暫くすると、数名の護衛に囲まれ、第1巫女サイハ(偽物)がやってきた。その立ち振る舞いは、俺が以前テレビで見た光景そのものだった。まわりにいた様々な生命体はサイハ(偽物)に視線を集める。きっとどの次元でも、彼女は美しく、目を引く存在なのだろう。


『はじめまして。第14次元 “ヨヤ”の第1巫女 “サイハ”と申します』


 サイハ(偽物)は俺の心に直接語りかけてくる。


「はじめまして、大使補佐の鳴神 来人と申します。 本日、伺わせて頂きましたのは――」


 俺は簡単に挨拶を済ませると、サイハ(偽物)に明日の交易会議の進行を伝えた。

 その間、サイハ(精神)がサイハ(偽物)の精神を探っている。


『何……これ?』


 たまに、サイハ(精神)が驚きの声を出す。この時点では何も情報は分からない。

 俺は、サイハ(偽物)と1時間の打合せを行った。そして、次元際フォーラムの外で待っていたリムジンの後部座席に乗り込むとサイハ(精神)に状況を確認した。


「サイハ、どうだった?」

『……あの人、私の知識や精神そのものだったの……ただ記憶がチクハグのように感じられたわ……誰かが私の精神を何回かに分けて複製してつなぎ合わせたみたい』


 そんな話は今まで聞いたことはない。

 俺は質問を続ける。


「目的は分かったのか?」

『……はっきりとは分からない……けど、“メデェアム”のイメージを感じたわ』

「メデェアム? 今回、ルルガの次元に輸出する鉱石の?」

『えぇ……あれはワタクシがラプチェの波動を操った結果できた鉱石なのよ、自身の感応能力を高めるものなの。ただ、私の次元では皆その能力が高いから意味のないものなの。だから輸出をしようとしていたわ』


 なるほど、少しヒントがあったのか……。

 俺とサイハ(精神)の会話に、ルルガ(精神)も参加する。


『あれは、ワシ等の危機感応力を向上させるものだからな……ワシの次元は、来人ら人間にとって地獄そのもの……いつも命の危機に瀕している。だから他の次元と比べ、個体数が圧倒的に少ないんじゃ……種族の存続のためにもあの鉱石は必要じゃよ』


 ということは、ルルガの次元に反感を抱く生命体の仕業だろうか? だが、合意なしにどうやって、精神を交換できるのだろうか?


『とにかく、今夜、女の部屋に行くしかないだろう……』

『は?! ちょっと待ちなさいよ! なんでワタクシの部屋に行かなくてはならないの?』

『仕方なかろう……。交易会議で何か問題が起きたら次元間問題に発展するぞ。女、お前の責任になるのだぞ。護衛が少ない時に、女(偽物)を問い詰めるしかなかろう』

『むぐぅ……それは』


 サイハ(精神)は納得してないようだが、ルルガ(精神)の言うことは一理ある。明日の交易会議で何か起きれば、それこそ、この世界が監督不行き届きだと言われて、他の次元が介入したがるだろう。

 俺は、綾香に電話し、状況を説明するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る