第57話 真面目な宗生
晃に連れられて、ようやく輪の中に入った私だったけど、あまり楽しむことができなかった。
菜津奈のことがあるからだ。
振られたってどういうことなのよ?
それなのに、その元気さは何なのよ?
不覚にも頭の中が菜津奈でいっぱいになった。
……結局もやもやした気持ちのまま懇親会は終わった。なんだか皆んなに申し訳がない。
そして夜も遅いということで、結局私たちは窪田家の別荘に泊っていくことになった。
流石に晃と同室ではなかったけど、菜津奈と同室だった。
これはこれで都合がいい。
本当は傷口に塩を塗る真似をするようで嫌だけど、あれから宗生さんと何があったのか、きっちり話してもらわないと、このモヤモヤが治らない。
なんて意気込んでいたけど。
「あんな直球で告白したのって、生まれてはじめてだったかも……なんだか恥ずかしいな」
菜津奈から切り出してくれた。
「直球? 『好きです付き合ってください』って手を差し出してたとか?」
まさかテレビじゃあるまいし、それはないよね。
「うん、そのまんまだよ!」
あっけらかんと答える菜津奈。そのまさかだった。
「え、まじで」
「まじまじ、いざとなったら他に言葉がでてこなくてさぁ。それが精一杯だった」
まあ、菜津奈は見た目と行動の派手さとは違って中身、結構乙女だもんね。
「まさか、宗生さんもストレートにごめなさいって反応だったわけじゃないでしょ?」
「流石に、それはね」
そりゃそうか。宗生さんはやんちゃな見た目と違って案外大人だもね。
「宗生さん、私の気持ち嬉しいって言ってくれた……でも、10年、いや成人してから出直してくれって」
へ……? 何それ。新しいパターン。
告白に出直してきてくれってなかなかないよね。
「宗生さん、私が未成年なのがダメなんだって」
「未成年が? なんで?」
あ……もしかして宗生さん青少年保護法を気にしてらっしゃる?
「俺はお前と付き合ったら確実に抱く。我慢するなんてできない。そんな自分の我儘で『継ぐ音』に迷惑かけられない……だってさ」
やっぱり!
見かけによらず、真面目なところがあるのは知ってたけど、そこまでだったとは。
音楽はロックだけど、そこはロックな感じじゃないのね。
ていうか……私と晃もそこは気をつけた方がいいってことよね。
「俺も晃と同じ高校生なら、お前の気持ちにすぐに応えられたんだけどな、俺は大人だから今は無理だ。ごめんな。って」
ふむふむ、宗生さんの尺度では高校生同士ならいいのか。
なら私たちはセーフ?
いや、でも自重した方がいいことには変わりないよね。
ていうか、これだけじゃ菜津奈の上機嫌には繋がらないよね。
「菜津奈は待つんだよね?」
「勿論! 二十歳になったら速攻で告るよ!」
告ってもらうんじゃなくてまた、菜津奈から告るんだ。
「これから約3年か……不安じゃない?」
「不安じゃないって言ったら嘘になるけど……」
うん?
なんだこの、モジモジした様子。
これは決定的な何かを言われたな。
「けど、何?」
「う……うん」
どんどん顔が赤くなる菜津奈。
本当かわいいな。
「宗生さんに……すきって言われた……」
ボソッと話す菜津奈。何となく聞こえたけど、ここは敢えて聞き直す。
「なんて言ったの? もうちょっと大きな声で」
「……すきって……言われた」
はっきり聞こえたけど敢えてもう一度聞き直すスタイル。
「もうちょっと大きく!」
「好きだって言われたの!」
ナイスです。うん、そういう理由なら菜津奈がふられたのに上機嫌なのも頷ける。
結果はどうあれ両思いで将来の約束まで交わしたわけよね?
なんかそれはそれでロマンチックだな。
「そっか、じゃぁとりあえず良かったのかな?」
「うん、まあ、今すぐ付き合えないことに寂しさは感じるけど……相手が大人で有名人だと仕方ないよね」
私的には、本人同士が好きならいいじゃないと思うけど、今の世の中はそうじゃないものね。
——この後も、たくさん惚気話を聞かされた。
とりあえずの結果に安心したのか、気がついたら私は眠ってしまっていた。
聞くだけ聞いといてごめんね菜津奈。
翌日、午前中は2人で『継ぐ音』の練習を見学させてもらった。
何度聴いても生『継ぐ音』は最高だ。
ファンとしてはこの空間に存在が許されるほど、喜ばしい事はない。
そして宗生さんを見つめる菜津奈が可愛過ぎて、ヤバかった。
モデルなんだから元々可愛いんだけど、それが恋する乙女の顔になり拍車をかけた。
練習が終わり、午後はショッピングでもしてホテルに戻ろうって話をしていたけど。
「えっ! 本当ですか、今すぐ戻ります!」
菜津奈は急遽モデルの仕事が入り帰京することになった。
「ごめん
「凄いじゃない、おめでとう」
「ありがとう!」
残念だけど、私も一緒に帰ろうかな。
なんて思っていると。
「晃、今日の午後はオフでいいぞ、浩司と詰めておきたい個所が結構あったからな、お前がいても邪魔だ。二人を送ってきてやれ」
そんな状況を察して宗生さんが晃を貸し出してくれた。
「分かりました」
気遣いは嬉しいけど、なんか晃の邪魔をしているようで気がひけてしまう。
「いこっか、二人とも」
だけど変わらない晃の笑顔に、その申し出を断れない私だった。
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