第54話 はじめまして

なる、なにボーッとしてるの、荷物手伝ってあげて」

「あっ、ごめん、そうだよね」


 窪田くぼたさんに促され、晃の荷物を音無おとなし なるがいくつか引き受けてくれた。


「今村さん、私も持つよ」


 そして窪田さん自身は、私がいくつか引き受けていた荷物を半分引き受けてくれた。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうね。これ合宿の皆んなの買い出しなの」


 そうだったのね。

 ……だからこんなにも大量に。


「うわ〜っ、晃ってめっちゃ力持ちなんだね……半分でもめっちゃ重いんだけど」


 それは、私も思った。

 私が手伝うって言った時『これ軽いからこれだけお願い』って渡された荷物も、まあまあの重さだった。

 それに、あの身体だし……力は相当強いと思う。


「晃くんが、力持ちってのもあるかも知れないけど、鳴が力なさ過ぎなのよ」

「えっ、そんな事ないと思うけど」


 確かに、音無鳴の身体つきは、晃と比べると随分貧弱に見える。

 ていうか、晃は『晃くん』って呼ばれているのか。

 女子で他にそんな呼び方をする人が居ないから、ちょっと新鮮だ。


「鳴も合宿の間、俺と一緒に筋トレする?」

「えーっ、筋肉つくと、ギター弾く感覚変わっちゃわない?」

「まあ、確かに……若干変わるけど」

「なんか、それが嫌でさ」

「そんなの、後でアジャストすればいいんじゃん」

「アジャストできる自信がない」


 すっかり、音無鳴と仲良しの晃だ。


 ……ていうか、私このままついていっちゃっていいのかな。


「今日はね合宿のメンバーで親睦会をするんだよ。いつきと菜津奈もよかったら参加していきなよ」


 そんな私の心を見透かしたかのように、誘ってくれる晃。


「えっ……でも私、部外者だし」

「そんな事ないわよ、メンバーの彼女さんなら部外者じゃないわよ」


 メンバーの彼女さんなら……その理屈でいくと菜津奈は部外者になっちゃうけど。


「まあ、まず戻ろうよ。みんな心配してるし」


 少し気は引けるけど、なし崩し的に理想的な状況になっていっているような気はする。



 *



 ——合宿所である別荘に到着すると、敷地内では浩司こうじさんと天音あまねさんと、何処かで見たことのある、ナイスミドルなオジさまがバーベキューの準備をしていた。


 ていうか……デカっ!

 別荘っていうか、豪邸っていうか、ホテル?


「晃くん、おかえり。樹さんも来たんだね、こんばんは」

「ただいまです」

「こんばんは」


 いち早く浩司さんが私たちに気づいてくてた。そして何の躊躇ためらいもなく私を受け入れてくれた。


「おかえり、晃くん。おや? そちらの彼女は、はじめましてだよね?」


 次にナイスミドルのオジさまが私たちに声を掛けてくれた。


「あっパパ、こちら晃くんの彼女のいつきさんよ」


 オジさまには率先して窪田さんが紹介してくれた。

 ……ていうか……パパ!?


「そうなんだね、はじめして樹さん。窪田くぼた がくです」


 窪田……ってことは本当に衣織さんのお父さんなのね……一瞬、変なこと考えちゃった。


「はじめまして、今村樹です」


 ん……ていうか、窪田学って……あの数々のアーティストを手掛けた名プロデューサーの窪田学?


 晃の方を見ると、ニコッと微笑んで、うなずいていた。


 場違い———————————っ!

 私だけ完全に場違いじゃん!


 ていうか、なにこの空間……『継ぐ音』がいて日本で1番有名なプロデューサーがいて『織りなす音』がいて……異空間じゃん!


「あっ、宗生むねおさんから電話だ」


 そしてそのタイミングで宗生さんから連絡が入った。まあ、会話の内容は全く聞く必要がなかった。


『晃! テメーどこに居んだよ!』

「先に、戻りました。樹と一緒です。菜津奈は?」

『菜津奈って誰だよ!』

「あっ、菜々です」

『一緒だよ! とりあえず、菜々と一緒に戻る!』


 宗生さんの声が大きくて、全部漏れてたからだ。


 ていうか菜津奈……本名は話してなかったんだ。


「すみません学さん……後1人増えるんですけど、いいですか?」

「ああ、いいよ。部屋もまだ余ってるしね」


 えっ……。

 部屋が余ってるって、私たちもお泊まり?


 なんか今は雰囲気的に、そのことについて掘り下げて聞くことは出来なかった。


 そして2人を待っている間、何もしないのもあれなので、私は中で準備をしている女子チームを手伝うことになった。



 *



「おーっ! 樹ちゃんも来たんだ!」

「はい」


 大きく手を振り出迎えてくれる静香さん。まるで来るのが分かっていたかのようだ。


「皆んな、紹介するね、晃くんの彼女の樹さんよ」


 そして女子チームには衣織いおりさんがサクッと紹介してくれた。


「おーっ! 晃くんの彼女っすか! 羨ましいっす!」

「彼女は時枝、うちのベーシストよ」

「はじめまして、今村樹です」

「はじめまして、あーしは時枝ときえっす」

「私はドラムの穂奈美ほなみ

「私は鍵盤の詩織しおりだよ」


 はじめましての方ばっかりだけど、皆んな癖が強くて、覚えられないってことはなさそうだ。


「自己紹介が済んだばっかで悪いけど、ちょっと樹ちゃん、こっち手伝ってくれる」

「あっ、はい」


 私は、女子チームに合流してすぐに、静香さんに呼ばれて別の場所に移動した。


「やっぱ来ると思ってたよ」

「えっ……そうなんですか?」


 なんでだろう。私、そんなに晃に会いたいオーラでてたのだろうか。


「菜々に誘われてたんだよね?」

「…………」


 あ……バレてたのは菜津奈なのね。


「はい……まあ」

「だと思った」


 なんで分かったんだろう。


「私が、『継ぐ音』の合宿について行くって言ってから、やたらメッセージが多くなって、遠回しに合宿のこと色々聞かれたからね」


 めっちゃあからさまだったのね。


「まあ菜々は、宗生くんが好きだしね」

「…………」


 そこまで、バレてるんだ。


 ……ていうか、これはもしかすると、静香さんの気持ちを確認する、千載一遇のチャンスでは?


「静香さんはどうなんですか?」


 私は思い切って、静香さんの気持ちを聞いてみた。

 もちろん菜津奈をアシストしたい思いからだ。


「宗生くんのことだよね?」

「はい」


 静香さんは、そのまましばらく私を見つめていた。

 そして静香さんは、笑みを浮かべながら、うつむいたかと思うと、急に真顔になって答えてくれた。


「好きだよ」


 え……。

 私は胸が騒ついた。


 


 

 ————


 【あとがき】

 

 静香さんも宗生が好き……。

 

 本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、

 ★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る