第48話 『晃』イコール『アキラ』

 翌日、待ち合わせ場所に着くと、既に二組のカップルが出来上がっていた。

 少しの間、遠目で二組の様子を伺っていたけど『私たち必要?』って感じのいちゃつきっぷりだった。


 一瞬、このままフェードアウトすることも考えたけど。


「今日、楽しみです! 寺沢君も『継ぐ音』好きですよね?」

「おう、メジャーデビュー当時からな!」

「小森、俺、今から緊張してるんだけど……」

「今から緊張してたら今日もたないよ」


 話題の中心が『継ぐ音』だったから、それはダメなようだ。

 ちなみに寺沢よ。晃、曰く『継ぐ音』はインディーズだからメジャーデビューはしてないからね。


 晃が到着するまで、ここで様子を見守っていようと思っていたら。


「ああ〜なんか、いい感じだね」


 晃も私の隣に居て、皆んなの様子を伺っていた。

 ……いつの間に。


「いつから居たの?」

いつきがここで立ち止まった時から」


 てことは、また同着。


「ねえ、晃って、わざと同着になるように何処かで私を見てたりするの?」

「えっ……何のこと?」


 どうやら違うようだ。

 単に波長が合うのか……なんかちょっと嬉しい。


「もうちょっと、様子見る?」

「なんかそれも、やらしくない?」

「そうだよね……時間もあるしね」


 ていうか……今日の晃の格好。


 サマーニット帽にサングラス。

 白Tシャツにデニムのコーデ。


 めっちゃシンプルなのに、着こなしが格好良過ぎて、芸能人感満載なんですけど。

 それに……Tシャツみたいな薄着だと、体つきがモロに分かるからセクシーさが強調される。


 今日の晃……控えめに言ってヤバい。

 やっぱ『継ぐ音』だから?


「とりあえず、いこうか」

「う……うん」


 ……私の彼氏やっぱカッコいい。

 この晃の姿を見たら『継ぐ音』じゃなくても学校の女子たちは放っておかないと思う。


「おはよう皆んな」

「おはよう浅井〜」


 晃が手を振りながら皆んなに近付いていくと、優花以外の皆んなが『誰だコイツ?』的な感じで浅井を見ていた。


「あ……浅井だよな」

「うん」

「なんか、いい感じだな」

「寺沢もね」

「……お前ほどでは、ないと思うけどな」


 私的には、寺沢の気合の入れ方は、晃の比じゃないと思う。


「晃……なんか普段と全然違うくない?」

健太郎けんたろう、お前もいつもと全然違うじゃん。気合い入れちゃった系?」

「そ……そんなことないよ! 普段とかわらないって!」


 晃……それは言わない約束だよ。

 もしかしてわざと?


「浅井くん、今日はなんか……格好いいね!」

「芹沢さんも可愛いよ」

「可愛いだなんて……そんな」


 これこれ晃、言葉を選ぼうね。特にその格好の時は。芹沢が照れてるし、寺沢が怖い顔になっちゃったじゃん。


 でも、3人が驚く気持ちはよく分かる。


「おはよう皆んな」

「やっほー、いつき、今日も可愛いね」

「ありがと、優花も可愛いわよ、思わずキスしたくなるような、ぷるぷるの唇だね」

「え〜樹とはやだよ」

「じゃ、誰とならいいの?」

「おいっ!」


 ダメだつい調子に乗ってしまった。

 

「あ……おっす、今村」

「よっ! 寺沢!」


 照れ臭そうに頭をかく寺沢。

 お礼を言いたいんだろうけど、今言ったら流石に露骨だもんね。


「今村さん、おはよう」

「おはよう芹沢」


 晃が可愛いって言ったのも、なんかうなずける。

 学校の雰囲気と全然ちがうもんな。

 寺沢嬉しいだろうな。


「はじめまして、今村さん」

「はじめまして……林くん? だよね?」

「はい! 林です! 林 健太郎です! お会い出来て光栄です!」


 え……なに光栄って。


「おい、健太郎。何言ってんだよ」


 そして晃がすかさず林くんの頭をはたいた。


「いてーな晃!」

「変なことを口走ってるからだろ」

「何言ってんだよ、今村さんはうちの学校のアイドルだぞ? 普通そうなるだろ!」

「ならねーよ」


 ……アイドルって。


「それはお前が、彼氏だからだよ! 全校男子の敵めっ!」


 おいおい、優花の前でそんなにも、はしゃいじゃってもいいのかな。


「2人って仲良いのね! つーか、浅井がそんなにはしゃいでるのが意外っ!」


 優花も参戦した。

 変な気遣いは無用なようだった。



 *



「じゃぁ、案内するから、ついてきてよ」


 私たちは、晃に先導されて『継ぐ音』のリハーサルスタジオに向かった。

 

「あそこの、ビルだよ」


 最初は皆んな騒いでいたけど、目的地が近付くにつれて、言葉数が減っていった。


 分かるよ……緊張してるんだよね。

 

 ——そして、リハーサルスタジオ? ホール? に着くと。


「おっす、アキラ、その子らか」

「はい、宗生さん、今日はよろしくお願いします」


 ベースの宗生さんが出迎えてくれた。


いつきちゃん、久しぶり!」

「ご無沙汰してます」

「相変わらず、可愛いな〜樹ちゃん、アキラが羨ましいぜ」

「宗生さんも相変わらず口が上手ですね」

「口が上手って、俺は本当のことしか言わないよな? アキラ」

「宗生さん……それ、俺答えにくいよ」


 私たちのやりとりに、みんな呆然としてた。


「それよりアキラ、早くセッティングしてこいよ。いま浩司もやってるわ」

「分かりました」


 そして3人はついに知る。


「みんな、俺、先に用意してくるから、後で入ってきてよ」

「浅井、先に行くって……何でだよ」

「だって、俺が『継ぐ音』のギターボーカルのアキラだからね」


『晃』イコール『アキラ』ということを。


「「「え——————————————っ!」」」


 なかなかの大声を上げたあと3人は。


「じゃぁ、行ってくるね」


 茫然とアキラを見送っていた。

 

 私と優花はそんな3人を温かく見守った。

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