第46話 優花の気持ち

「えっ! マジで! 寺沢てらさわ芹沢せりざわさんのこと好きなんだ! 両想いじゃん!」


 家に着いて、私は例の件よりも先に、芹沢さんの件を話した。普通に黙ってるのが無理だったし、冷静に考えたらあの件は重すぎる。

 私だけの心の中にしまっておこうと思った。


「あ〜このこと芹沢さんに話したいな〜」

「分かる! 私も寺沢に話したくてウズウズしてたもん」

「こういう時って、どうしたらいいんだろう? お前ら好き同士だよって言ってあげた方がいいのかな?」

「どうだろうね……私ならやっぱり本人の口から聞きたいし、聞くまでは不安かな」

「あ〜、それもあるか」

「でね、寺沢に一緒に遊びにいくセッティングしてあげる約束したんだけど……晃は流石に無理よね?」


 少し考え込む晃。


「ちょっと、まってね。スケジュール確認する」


 スマホアプリでスケジュールを確認する晃。

 最初に考え込んだのはいったい何なんだったんだろう。


「明後日! 明後日はいけるよ!」


 明後日……でも明後日は逆に言うと2人の時間にすることもできるってことよね。

 悩ましい。


 っで……ダメよね。晃が寺沢のために開けてくれた時間だもんね。


「…………」


 なんかそれも、複雑だなあ。


「ありがとう、じゃぁ、とりあえず、寺沢と芹沢さんに聞いてみようか?」

「そうだね……でもどこ行く?」


 どこへか……晃がいるから買い物は却下よね。


「カラオケとか?」

「ごめん……喉は酷使できない」

「ボーリングは?」

「腕に負担が掛かるのはしんどいかもしれない」


 喉と腕に負荷をかけれないってことね。

 ていうか、時期が時期だから、手とか指も大事にしないといけないのか。


 映画とかは一緒に行く意味ある? ってなるし。


 案外難しいわね。


「無難に買い物は?」

「うん、晃がいると無難じゃなくなるから」


 私は満面の笑みで応えた。


「そ……そう」


 晃はさっしてくれた。


「公園デートとかは、私たちが寺沢誘う意味分かんないよね」

「そだね」

「理由って案外難しいのね。自然に誘おうと思ったら、絶対何か目的が必要だもんね」


 両想いだからって、安請け合いし過ぎちゃったかな。


「ねえ樹、『継ぐ音』のリハーサルの見学に来る?」

「へ……」


 なにそれ!?


「寺沢も、芹沢さんも『継ぐ音』聴くじゃん」

「うんうん」

「だから、リハ見に来るとかは、いい理由になるんじゃない?」


 いい理由っていうか、今年1のイベントになる可能性だってあるわよ。


「ていうか……それ、いいの?」


「俺さ、別にみんなに『継ぐ音』のアキラだって隠してるわけじゃないし、俺は全然問題ないよ。それにそういう理由なら宗生さんも浩司さんも、協力してくれるだろうし」

「そ……そっか」

「でも、それ誘うなら、小森さんも誘っておきたいかな」

「あ……優花も『継ぐ音』ファンだもんね」

「うん……仲の良いメンバーで、誘われなかったら、後で嫌な気持ちになるかもしれないしね」

「分かった、優花も誘うよ!」

「ていうか、小森さんは先に事情説明してた方が良くない?」

「あ……そうね」

「それとね……前から少し気になってたんだけど、小森さんは、寺沢のことどう思ってるんだろう?」


 優花が……寺沢のこと。


「3人はずっと一緒だったんでしょ?」

「う〜ん」


 流石に寺沢のことは、何とも思ってないと思うけど。


「本人に聞いてみる?」

「いいの?」

「そういうの気にする子じゃないし」

「じゃぁ、お願いできるかな」


 早速メッセージで聞いてみると、今から来ると返信がきた。


「……いいかな晃」

「俺はいいよ」


 そして、程なくして玄関のチャイムが鳴った。相変わらずの行動力だ。


「おっす浅井、昨日は大丈夫だった?」

「うん、ごめんね心配かけて」

「本当だよ、樹とかヤバかったんだからね」


 これこれ、それは言わない約束でしょ。


「えっ……そうなの?」

「……うん……まあ、心配だったからね」

「……ごめん、本当これから気をつけるよ」


 まあ、そのおかげで良いことがあったから、全然いいんだけどね。


「で、寺沢が、芹沢さんのこと好きって本当なの?」

「本人が言ってるから間違い無いと思うけど」

「そうなんだ! びっくりよね!」


 ていうか……今更だけど晃と優花に話して良かったのかしら。


「でね、私が場をセッティングすることになったんだけど、晃がさ、優花が寺沢の事どう思ってるのか、気になったみたいでさ」

「あぁ〜あいつとは腐れ縁だもんね」

「そうそう」


 私の問いに、優花は。




「まあ、好きだよ?」



 

 真顔で応えた。



 今、優花……好きって言った?


 真剣な眼差しで私を見つめる優花。


「私が寺沢を好きだと、ダメ?」


 え……いつからなの?

 私、全然知らなかった。


「だ、ダメなわけじゃないけど、ちょっと、驚いたっていうか」


 私がしどろもどろしていると、優花はニヤっとして。


「まあ、友達としてだけどね!」


 最初に思っていた言葉をくれた。


 ……してやられた。

 ていうか、まじ焦った。


「だから浅井も、気にしないで」

「う……うん、分かった」


 浅井も焦っていたようだ。


「でね、優花」

「うん」

「……寺沢と、芹沢さんの場のセッティングなんだけど」

「どうしたの? いいアイデアが浮かばなかったの?」

「ちがうの、晃が『継ぐ音』のリハーサルに招待してくれるらしいから、優花も一緒にどうかな? って」

「行く! 絶対に行く!」


 優花は即答だった。


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