第44話 ふたりの決意

 晃と結ばれた翌朝の事だった。


「ねえいつき、大学とか進路ってどうするつもりなの?」


 朝食の用意をしている時に、いきなり、そんな話を振られた。


「えっ、いきなりどうしたの?」

「うん……ちょっと気になってね」


 まさか同じ大学に進学したいとか?


「…………」


 まあ、晃に限ってそれはないわよね。

 晃には『継ぐ音』がある。

 高校はともかく、大学に進学するメリットはあまりない気がする。


「う〜ん……まだ考えてないかな」

「……そっか」


 実際にそうだ。

 就職か進学かって言われると漠然と進学になるのだろうけど、私にはまだ、将来の目的らしいものが何もない。

 とりあえず、大学に進学して、それを探すために親のスネをかじる。

 そんな感じになると思う。


「晃は、やっぱり『継ぐ音』だよね?」

「うん、俺は高校卒業したらアーティスト活動一本に絞るよ」


 まあ、普通に考えればそうよね。

 ……でも凄いな、晃は……今から将来の夢というか目的があって。

 なんなら既に夢は掴んでいるのか。


「実はさ『継ぐ音』が有名になって、高校を辞めることも、考えたことはあったんだよね。でも、メンバーも天音さんも舞子姉ちゃも両親も、皆んな辞めるのには猛反対でさ……」


 そんな事があったんだ。


「結果的には、本当に皆んなの言う通り、高校辞めなくて良かったと思ってる。でも流石に大学はいかないかな」

「……そうだよね」


 流石に、大学は晃にとって遠回りになっちゃうよね。


「俺にとっての学生時代は樹と出会えた事が全てだよ。だから本当に高校を辞めなくて良かった」


 ……え。

 

「樹と出会えて、俺の人生は本当の意味で豊かになったような気がするんだ」


「…………」


 ……ヤバい、不意打ちで何てこと言うのよ。

 涙腺がゆるみそうじゃない。


「まあ、寺沢とか小森さんとか芹沢さんとか、樹以外にも知り合えてよかった人はいるけど、樹が居なかったら、皆んなと仲良くなることも、なかっただろうしね」


 音村さんと、柿本が入ってなくてよかった、と思った私はダメな子なのだろうか。


「そ……それは、買い被り過ぎじゃない?」

「そんな事ないよ……俺は樹にたくさん与えてもらったよ」


 なんか私の方が与えてもらってばかりのような気がするんだけど。


「だからさ、俺は高校卒業したら、樹にプロポーズしようと思ってるんだ」






「…………」





 え————————————————っ!


「昨日のことも、中途半端な気持ちじゃないんだ。俺は、樹への責任をちゃんと果たしたいんだ」



 何気ない朝のひと時に、いつもの優しい笑顔で、とんでもない発言をする晃。


 ……ていうか、もうそれって。



 

プロポーズじゃん!





「先に言うのは、卑怯かと思ったけど……だから樹の進路を聞いておきたかったんだ」

「そっか……」


 えーと……やばい。

 めっちゃドキドキしてる。

 そして頭が回らない。

 まさか、いきなりこんな話になるなんて思ってなかったわよ!


「今すぐ答えなきゃだめ?」

「ううん、決まってるならと思ってね」


 晃は、ひょうひょうとしているから、つい勘違いしてしまうけど、基本は男らしい。

 でも……プロポーズまで、っていうか結婚まで考えてくれていたのは本当に驚いた。


 晃の気持ちが重い、なんてことは、これっぽちも感じていない。

 晃が、私と結婚したいのなら、私的には高校だって辞めていいと思ってる。

 

 でも、晃が今、こんな事を言ってきたのはそう言うことではないのだと思う。


 お互いの意思を尊重しつつ、最適な未来を探りたい……そんな想いからだろう。


 私は自分の進路をまだ決めていない。

 でも、プロポーズの答えは決まっている。

 私は晃と共に人生を歩んでいきたい。

 それだけが、今決まっている私の進路だ。


「ねえ、晃」

「……なに?」

「この間のペアリングさ、左手に付けるようにしない?」

「左手に……」


 そして今の私が言えるのはこれぐらいだ。


「それはいい、考えだね」

「でしょ」


 今、私は、間違いなく人生の中で一番幸せだ。

 2年に上がった頃は、まだアキラ様の事が好きで、こんな幸せな気持ちになれるなんて、考えてもみなかった。

 片思いに悶えて、また告白されて振っての、薔薇色でもなければ灰色でもない、何とも言えない高校生活を送るものだとばかり思っていた。


 本当に些細なことで人生は変わる。

 私が、モテる方で、誰かにやっかまれて、あの日消しゴムがなくなった事が、ここまでの結果を生むなんて、誰が想像できただろうか。


 出会いに感謝して、これからもこの人と歩んで行きたい。


 そんなふうに思った朝だった。




 

 ————


 【あとがき】

 

 なんか綺麗にまとまっていますが、最終回じゃないですよ!

 むしろここからです!

 

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