第37話 庶民デート

 悩みって言うほどの悩みじゃないんだけど、私は晃の金銭感覚を気にしている。

 この間のデートの時も、楽器屋さんの時も、単位が何桁かおかしい。

 本人にとっては普通なのかもしれないけど、ギターとかプレゼントされても困るし、服だって『ここからここまで〜』とかでプレゼントされても困る。

 嬉しいのは嬉しいけど、私はそれに見合うお返しができない。


 金額じゃないよって、どこかのエロい人は言うけど……対等でいたい私からしたら、そうじゃない感、満載だ。

 だから私たちが、今後健やかに恋人生活を営むためにも、晃には高校生らしい金銭感覚を是非とも身につけてもらいたい。


 だから私は企画する。


 私主体のデートを。

 晃にはぜ〜〜〜〜〜〜ったい、口を挟ませない。


「というわけで、この週末は空いてる?」

「え、どういうわけ?」

「細かいことはいいの! 空いてる?」

「うん……空けるよ」

「え、空いてなかったの?」

「ううん、この間、なるとアヤトに教えてもらった、フレーズをちょっと固めようかなって思ってただけ」


 ギターか。

 晃は、ちゃっかりあの後、音無おとなし なるとアヤトと連絡先を交換し、お互い名前で呼び合う仲になっていた。

 ギターが絡むと、とにかく積極性が凄いってことが分かった。


「いいの?」

「うん、だって合宿になったらずっとギター漬けだし、いつきにも……しばらく会えなくなっちゃうし」


 そうだ……夏休みに入ると、私たちはあまり会えなくなる。

 フェスに招待されるとはいえ、晃のスケジュールを見ると絶望的な感じだった。

 普段なら彼氏のためにと一歩下がる私だけど……よし、ここは晃の言葉に甘えて、晃成分を補給するために、私の意見を通させてもらおう。


「じゃあ、お言葉に甘えて空けてもらってもいいかな?」

「もちろん」

「でもね、一つ条件があるの?」

「えっ、条件ってなに?」


 なんか自分からスケジュールを空けろって言っといて、条件があるとか、ちょっとじわる。それを素直に受け入れる晃にも。


「今回のデートは、私プロデュースだから! 晃は黙ってついてきて欲しいの!」

「え……まあ、別にいいけど……なんで?」

「庶民的デートがしたいからよ」

「庶民的ってなに? 俺も庶民だよ?」


 ほら出たよ。

 また無自覚だ。

 まあ、嫌味がないから別にいいんだけど。


「晃が思ってるよりもっと、庶民的なデートよ!」

「なんか……想像ががつかないな」


 そりゃ、あんな暮らししてたらね。


「まあ、任せといて」

「うん、分かった」


 自分で任せといてとか言いながらも、エスコートしてもらえない事に寂しさを感じた。

 お前が言うなってなるだろうけど、女心は複雑なのだ。


 ——そしてあっという間に週末。


 前回に引き続き、また私と晃は待ちわせた。


「「あっ」」


 そしてまた、同着だった。

 もしかして晃、隠れて様子見てて、私が姿を現したら来ていたりするのだろうか?

 ……まあ、2回ぐらいならただの偶然ってことも十分考えられる。

 むしろ時間感覚が似ているだけって線もある。また次、同着だったらそれとなく聞いてみよう。


「じゃぁ行こうか」

「うん」


 晃を誘うときに『私プロデュース』なんて大見得切ったけど、実は今日の私はノープランだ。


 もちろん私が言い出したことだから『庶民デート』をネットで検索したり、色々手は尽くした。

 でも、調べても調べてもお散歩デートがメインでそれ以外の情報はほとんど見つけられなかった。

 お散歩デートなんて完全にコース依存だ。

 そしてネットで調べるにも限界がある。

 つまり今日のデートは、ノープランお散歩デート、ぶっつけ本番編なのだ。


いつき、どこか行くところ決めてるの?」

「ううん……特にこれとは、ほらっ、最近なんかバタバタしてたじゃん。だからお散歩デートとかしたいな〜とか思っちゃって」


 じぃ〜っと私を見つめる晃。

 流石に苦しかった?


 でも、晃は満面の笑みで。


「いいね! リフレッシュしたかったから丁度いいよ」


 賛成してくれた。


 なんか申し訳ない。


「ねえいつき、こっち行ったら池のある公園あるの知ってる?」

「えっ? そうなの?」

「行ってみようよ」

「えっ……」

「ほら、行こうよ」


 晃は私の手を取り、エスコートし始めた。

 

「そこの公園ね、休みの日はね粉物の露店が出てるんだよ」

「え、そうなの?」


 何気に詳しい。


「それがさ、めっちゃ安いのにめっちゃうまいの」

「何それB級グルメとかいうやつ?」

「そんな感じかな」


 晃に連れらた公園には、ポツポツと露店が出ていた。


 そして、休日なのに人通りもそこそこで、程よくのどかだった。


「おっ、毎度!」

「毎度毎度〜」


 顔見知りのように露店の店主と話す晃。


「2つくれる?」

「おっけー毎度あり……って彼女か?」

「うん、彼女」

「おー! ついにだな!」

「約束は守ったでしょ?」


 約束ってなんだ?


「うんうん、ありがとう兄ちゃん今日はサービスしとくよ」

「えっ、それはダメだよ、ちゃんと受け取って」

「いいって、若いもんが遠慮しちゃダメだって」

「でも……」

「いいから、いいから」

「なんか……悪いね」

「いいって、いいって、また来てくれよ!」

「うん、また」


 私もお礼をいいたかったのだけど、会話のテンポが速すぎて全くついていけなかった。

 でも、とりあえず、会釈だけはしておいた。


「はいいつき

「ありがとう……って何これ?」

「キャベツ焼きっていうんだよ、食べてみて、めっちゃうまいから」


 なんか小さなお好み焼きみたいだ。


「さあさあ、早く」


 晃に急かされながら、早速一口食べた。

 って……これは!?


「すごく美味しい!」

「でしょ、よかった」


 めっちゃ笑顔でキャベツ焼きを頬張る晃。少年のようだ。


「さっきの人は、知り合いなの?」

「うん『継ぐ音』がここで、ストリートライブやってるときに仲良くなったんだ」

「そうなんだ? で、約束って?」

「ああ、あのおっちゃんにね、結構差し入れてもらってたから……彼女できたら沢山買いにくるって約束してたんだ」

「……そうだったんだ」

「でも、結局またおごってもらっちゃった」


 晃には、色んなドラマがあるんだな。


「あれ? いつき

「うん?」


 晃は私の口元を親指で拭い、そのままペロッと舐めた。

 

 ……何事。


「ソース、ついてたよ」


 笑顔で答える晃。


「ありがとう……」


 これって、あれよね……ご飯粒がほっぺとかに付いて、それをとって食べたらドキドキ的なやつ。


 でも……流石にソースは、微妙だった。

 

 ていうか、庶民デートも結局晃にエスコートされている。


 ……なんとか巻き返しを図らないとと意気込む私だった。


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