第33話 結局2人の関係って?

あきら、私ソロエレキギターやってみたいの、だから楽器屋さんに連れてって」

「えっ……いつきが、ソロエレキギター?」

「うん!」

「歌、無いけど大丈夫? インストだよ?」

「うん、なんか晃の教えてくれたアヤトって人の動画見てたら、やってみたくなっちゃった」

「おーっ! それは嬉しいね! 行こう行こう!」


 そんなわけで、今日の放課後はエレキギターを見に行く事になった。


 だけど。


 また校門で菜々さんに捕まってしまった。


「待ってたわよ、いつき!」


 しかも、今日は結構人だかりが出来ていた。

 

「あの人、モデルの菜々さんだよね!」

「顔小さいっ!」

「神スタイル、羨ましいっ!」

「めっちゃ、可愛い!」

「写真撮っても怒られないかな?」

「菜々さん、素敵っ!」


 昨日と打って変わってモデルオーラ全開の服装だった。


「どうも、こんにちは、菜々さん」

「菜々で良いわ樹、私とあなたの仲じゃない」

「あはは……」


 菜々さんの代役になって、昨日お礼を言われただけの仲だ。


「行こうかいつき


 そんな菜々さんに今日も晃は辛辣だった。


 昨日はいつき成分足りていないから八つ当たりしたとか言ってたけど、今日はずっと一緒だったし、ちゃんといつき成分足りてるよね?


「…………」


 あ……ダメだ。

 これは自分で言ったら恥ずかしいやつだった。


 まあ……それは置いといて、何で晃は今日も辛辣なのだろう。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 昨日と同じく、菜々さんは小走りで、私達の前に躍り出て、行手を阻んだ。


「もう、私病み上がりなんだからねっ、走らせないでよ」

「なら、来んなっ!」


 ちょっと引くぐらいキツい晃。

 菜々さんって、やっぱり昨日言ってた、やんちゃしていた時の知り合いじゃないの?


「なんなのよ、あんたは、何でそんなに私にキツいのよっ!」


 自覚あったんだ。

 そりゃあるか。


「お前の来るタイミングが悪いからだっ! 樹はこれから俺と大事な用があるのっ!」

「何の用よっ!」

「楽器屋に行くんだよっ!」

「じゃあ、私もついていくわ」

「来んなっ!」

「何でよっ!」

「邪魔だっ!」

「私も樹に用があるのよ!」

「今日はもう予約済みだよ! むしろ俺が死ぬまで予約済みだ! 百年後に出直して来い!」

「死んでるわよっ! つーか、あんた百超えても生きるつもり? 引くわっ!」


 何だろう。

 内容はともかく、息ぴったりで、妬けるほど仲が良いんだけど。


「仲良いね2人……」

「「どこがっ!」」


 そこがだよ。


 ——取り敢えず、人目につくし、3人で私の家に移動した。


「お邪魔します」

「本当に邪魔だよ」


 晃は家に行く話になってから、明らかに不機嫌になった。


「で、何の用なんだお前は」


 やっと分かった。


 今日、晃がこれほどまでに辛辣なのは、きっと私と楽器屋さんにいくのを、楽しみにしてたからだ。

 本人が言った通り菜々さんの来るタイミングが悪かったのだろう。


 ……子どもだなぁ。


 でもまあ、それぐらいの方が可愛気があっていいけど。


「なんで、お前扱いなのよ! 私には菜々って名前があるのよ」


 とはいえ、このままでは菜々さんが少し可愛そうだ。


「いいから、用件をさっさと言え! 菜々!」

「何で、いきなり呼び捨てなのよっ! 菜々様って呼びなさい!」

いつき……やっぱりこいつ放り出そう。今すぐに」


 力尽くで菜々さんを家から放り出そうとする晃。

 とりあえず……2人に仲良くなってもらわないと話が進まない。


「ごめん! ごめんて! 呼び捨てでいいから、放り出さないで!」


 なんか……コントを見せられている気分なんだけど。


「ねえ、そろそろ2人に仲良くなってほしいんだけど」

「「なんでこいつなんかと!」」


 息がピッタリ過ぎて、なんかイラついてきた。


「誰が、こいつよ!」

「それは、こっちのセリフよ!」


「……ねえ、2人とも」


「お前なんか、こいつ扱いで充分なんだよ!」

「だから、菜々って名前があるって言ってるでしょ!」


 ダメだ……限界だ。


「いい加減にしなさい2人とも! いつまでも夫婦漫才みたいなの見せつけてんじゃないわよ! 菜々さんもいきなりきて自分の都合を押し付けられるのも困るし、晃も女の子にはもっと優しくしなさい!」


 2人は。


「「ごめんなさい」」


 やっと大人しくなった。


 *


いつきをこの間のお礼に……ディナーでも誘いたかったのよ」


 少し照れながら話す菜々さん。案外律儀なんだ。


「なんなら、あんたもついてきていいわよ」

「誰がお前なんかと行くかっ!」

「お前なんかって何よ!」

「お前なんかはお前なんかだ!」


 せっかく鎮火したのに、なんでわざわざ晃に絡んで着火させるんだ……この人は。


「菜々さん、お気持ちだけ受け取っておきます」

「それじゃあ、私の気が収まらないわ」

「いや……でも」

「とりあえず、連絡先交換しましょ! それから考えましょ」


 なんだかんだ強引だ。


「まあ、連絡先を交換するぐらいなら」

「やった、ありがとうね」


 モデルさんって聞いてたからもっと気難しい人なのかと思ったけど、菜々さんそうでもなさそうだ。


「ほら、あんたも交換するわよ」

「何で俺がお前なんかと」

「そんなこと言ってたら、また樹に怒られるわよ」


 2人を笑顔で見つめたら。

 晃も察してくれた。


 そして、2人が連絡先を交換すると、菜々さんの様子が変わった。


「あ……浅井晃……あんた、あの晃なの!?」

「え、あの晃ってなに?」


 菜々さんは晃のことを、知ってるみたいだけど……晃は本当に知らなさそうだ。


 どういうこと?


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