第31話 どういうこと?

 週が明けて学校へ行くと大変なことになっていた。


「これいつきだよね?」


 優花ゆうかのスマホに写っていたのは、メイクで生まれ変わった私。


「……う、うん」


 あの日のメイクイベントの様子がSNSでガッツリ拡散されていて、学校でめっちゃ話題になっていたのだ。


「いつの間に、モデルデビューしたの!?」

「いや、デビューとかそんなんじゃなくて」

「水臭いよ、教えてくれたらよかったのに」

「いや、だから違うんだって」

「何が違うの?」

「本当に違うの……たまたま、静香さんとバッタリあって、それで菜々ななさんて人の代役を頼まれて」

「えぇ————————————っ!」


 詳しく話はじめると、優花は声を上げて驚いていた。


「静香さんとたまたまって……あのカリスマスタイリストの恩田おんだ 静香しずかと知り合いなわけ!?」

「いや……それも、そういうんじゃなくて」


 優花に耳打ちして静香さんが『継ぐ音』のスタイリストだと教えた。


「なるほど……あんたの彼氏すごいね」

「あははは……」

「ていうことは、私も恩田静香に会っていたってこと!?」

「え……なんで?」

「だって、あの時、浅井と腕組んでた女の人でしょ?」


 あ……そういえばそうだった。


「うん……そういうことになるね」

「あ—————————ん、なんであの時気付かなかったんだろ!」

「あれは、仕方ないよ……」


 だって、私が怒ってたし。


「それより、今日は1日大変なことになるよ」


 私の席の周りに人だかりが出来ていて、優花と私が話し終わるのを今か今かと待ち構えている様子だ。

 ……まあ、待ってくれているだけマシか。


 案の定、優花と話し終わると、私は質問攻めにあった。そしてその質問は、私のことじゃなくて——ゲスト出演したあきらのことだった。


 彼氏が人気者なのは誇らしいことだけど、何とも言えない複雑な気分になった。


 そして私は、その鬱屈とした気分を……格ゲーで晃に晴らそうとしていたのだけど。


「ちょっと、あんた待ちなさい」


 帰り際、校門でツンデレっぽい話し方の、謎の美少女に声を掛けられた。

 内巻き外ハネのショートボブ。ぱっちり二重で、大きな瞳。

 背もすらっと高くて。

 まるで、モデルさんだ。

 

 誰だろう?


「あなたが、いつきね」


 私の名前を知ってる?

 本当に誰!?


「……はい、そうですけど……あなたは?」

「私?」

「……はい」

「私のことが知りたい?」


 ちょっと嬉しそうだ。

 本当にツンデレっぽい。別に知りたくはないけど、ここで『いえ』とか言ったら面倒臭いことになるんだろな。


 なんて思っていると。


「帰ろっか、いつき

「「えっ」」


 晃が予想だにしていなかった割り込みをしてきた。


「ちょっ、あんた誰なのよ、勝手に割り込まないでよ!」

「いや、勝手に割り込んで来たのは君だからね」


 全く晃の言う通りだ。


「黙りなさい! 今話してたのは私なんだから!」


 だけど、とんでも理論を展開する謎のツンデレ美少女。

 そんな彼女を晃はジト目で見て。


「うん、やっぱり帰ろう」


 私の肩をそっと抱いて歩きはじめた。


「んがぁ——————っ、だから待ってて!」


 ツンデレ美少女は小走りで、私たちの前に回り込んできた。


「つーか、おたく、いったいなんなんですか?」


 珍しく晃が容赦のない言葉を浴びせる。


「おたくって、あんたね!」

「だって、おたく名乗ってないでしょ? そもそも樹に用があるならそっちから名乗るのが筋でしょ?」


 晃の、至極真っ当な返しに、彼女は。


「うぐぐっ……」


 となっていた。


「行こっ、樹」

「あ、うん……」


 しかし、今日の晃は容赦がない。嫌なことでもあったのだろうか。


「待って、待って! 分かった! 分かったわよ!」


 晃は立ち止まったけど、とても興味のなさそうな顔をしている。


「し、仕方ないから教えてあげるわ!」

「まじで帰ろう、樹」

「嘘! 嘘だって! だから待って!」


 なんだろう。2人のやりとり……割と楽しいんだけど。


「私は、菜々ななよ……樹、昨日はその……どうもありがとう」


 なんとなくそんな気はしていたけど、謎のツンデレ美少女の正体はモデルの菜々さんだった。


「ていうか、なんなのよ、あんた、さっきから」


 菜々さんは、名乗ったと同時に晃に絡んでいた。


「俺はいつきの彼氏だ、怪しい奴がいたら守ろうとするのは当然だ!」

「怪しくなんてないわよ! ていうか、あんたの方が怪しいじゃない! 前髪で顔が見えないじゃない!」


 なんか……この2人仲がいい。


「まあ、用は済んだんだろ? 帰ろ樹」

「ちょっと、待ってよ! まだ話したいことがあるんだって!」


 なんか必死で可哀想になってきた。

 

「話しってなんだ。俺が聞いてやる」

「あんたに、話しなんてないわよ!」


 とことん辛辣な晃。

 この2人、本当に初対面なの?


「……いつき、ってさ『継ぐ音』のアキラの知り合いなんだよね?」

「ええ、まあ」


 なんだよ……また晃のことかよ。


「あのさ……あいつ、私のこと何も言ってなかった?」


 ん? ん? ん? ん?


 どういうこと?

 2人はやっぱり知り合いだったってこと?


 菜々さんって聞いた瞬間から急性虫垂炎のことが気になっていた私だけど、そんなこと、一瞬で吹き飛んでしまった。


 晃——どういうこと?


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