第30話 終わり良ければ全て良し
「なんか……凄いところだね」
「そうだね、でも、ここドレスコード気にしなくても大丈夫だから、気軽に利用できるよ」
「そ……そうなんだ」
でも私はこんな場所、全然慣れていないので、気軽になんて……とても無理だ。
ホテルに入ってからは
取り繕っている感も、無理している感じもない。ごくごく自然にだ。
やっぱり晃は……スペックが高い。
もし、晃が寺沢みたいにオラついていて自己主張の激しい性格だったなら、かなりモテたと思うんだけど、逆にそんな性格だったら、こんなにもスマートな感じにはならなかっただろうな〜と想像して、1人でウケていた。
——バイキングと言っても、自分で取りに行くタイプではなく、オーダー形式のバイキングだった。
晃は当然のように、ドカ食いだった。
もちろん肉、肉、肉……肉ばかりだった。
晃の食べっぷりには、店員さんも驚いていた。
デザートも食べ放題で、ドカ食いだった。
心の中で、女子かっ! と突っ込みを入れたくなるほど、幸せそうな顔をしてスイーツを頬張る晃。
なんというか……普通に可愛い。
そして……気になる晃のお腹は……全然すっきりしていた。
控えめに言ってもキロ単位で食べていた。
なのに、全然お腹が出ていないとか……本当にどうなているのだろう。
これは、人体の不思議だ。
「
そんな事はない私は女子にしてはよく食べる方だし、今もやっと緊張から開放されて、結構ガッついた方だ。
まあ、考えようによっては晃の前だと小食に見えるメリットがある。
でも、食費が大変だなぁ〜なんて考えていた。
*
「ねえ晃、あの
「う〜ん、マネージャーとはちょっと違うんだけど、アーティストエージェントの人で、契約関係を一手に引き受けてくれてる人なんだ。天音さんの場合は企画もやってくれているし、天音さんがいなかったら今の『継ぐ音』はなかったよ」
そうだったんだ。
「静香さんとか、樹も知ってる『夢音』も天音さんがエージェントだよ」
「だから今日来てたのね」
「うん」
「若いのに、凄い人なのね」
「今年で、48歳って言ってたかな? 確かに年齢の割に凄い実績だね」
「えっ、48歳だったらうちのパパと一緒じゃん! 私もっと若いと思ってた」
てっきり30代前半だと思っていた。
歳の取り方がチートね。
「本当に凄い人だよ、
「窪田 学ってあの名プロデューサーって言われている窪田 学!?」
「うん、そうだよ。それと
「あは……ごめん、どっちも分からない」
「あはは、そうだよね……Ayatoはね、俺が部活でやってるソロエレキギターで超有名な人なんだ」
「……そうなんだ」
子どものように目を輝かせて話す
でも、ごめんね……私は歌が入ってる音楽しか分からないの。
晃がボーカルギターじゃなくてギターボーカルの肩書を使う理由が、今日はじめて分かった気がした。
「そういや夏フェスで、その窪田 学が手掛ける『織りなす音』ってバンドと対バンになるんだけど、ギタリストが音無 仁の息子でさ、そいつのギターがめっちゃヤバくてさ、今から楽しみで仕方ないんだ」
「『織りなす音』って聴いた事ないわね?」
「ミュージックビデオが上がってたよ、ちょっと大人な感じのロックで、嫉妬するぐらい歌もよかったよ」
……晃がそこまでいうんだ。
「帰ったら聴いてみる」
「うん、かなりおすすめだよ!」
これは帰ってすぐに聴かないとダメだな。
「そうだ、
色々あったけど、そんなに疲れてはいない。
「……うん、まだ大丈夫だよ」
「じゃぁさ、ペアリング買いに行こうよ!」
「え……」
ペアリング……めっちゃ嬉しいんだけど。
「ペアリングは重たい?」
「全然そんな事はないよ! むしろ嬉しいっていうか」
「よかった……彼女ができたら、そういうことしてみたかったんだよね」
「そ……そうなんだ」
晃は……色々と中身が女子っぽい。
この後、一緒にペアリングを買いに行って、帰りは気を使ってくれたのか、タクシーで家まで送ってくれた。
稼いでる晃だからこそできる気遣いっていうのもあるけど、私に何も聞かず、タクシーを止めた晃に、何か大人っぽさみたいなものを感じた。
今日のデートは、思っていたデートとは全然違ったけど、一生忘れないほど、インパクトのあるファーストデートになった。
でも、今度はもっと普通のデートがしてみたい。
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