第27話 デートその3

 カフェを出ると、広場に人だかりが出来始めていた。何かあるのだろうか?


「すごい人だね、イベントか何かかな?」


 イベント……こんなところで何の?


「……どうなんだろうね」


 なんて話をしていると。


いつきちゃ〜ん」


 とても派手な格好をしたお姉さまが私の名前をを呼び、手を振りながら近づいて来た。


「げっ……」


 あきらはとても嫌そうな反応をしている。ていうことは……。


「おっ、晃だったんだ、新しい彼氏かと思っちゃった」

「違うよっ!」


 やっぱり静香しずかさんだった。


「よかったわね晃、いつきちゃん、可愛いから、とっくに振られちゃったと思ってたよ」

「振られてないからっ!」


 なかなかの勢いで突っ込みを入れる晃。

 普段なかなか見れない晃の一面だ。

 ……これが付き合いの長さってやつなのだろうか。


「やっほーいつきちゃん」

「ご無沙汰してます静香さん」

「相変わらず可愛いね、晃にはもったいないっ!」

「……あはは」


 こんな時、なんて返せばいいんだろう。正解が分からない。

 それにしても……綺麗。

 女の私から見ても、とても魅力的だ。


「ていうかさ、丁度いいところで会ったわ、2人にお願いがあるんだけど!」

「えぇ……」


 あからさまに嫌そうな顔をする晃。


「何よ晃っ、私のお願いが聞けないっていうの!」

「あ、いや……」

「ああん?」

「……全然、そんなことないよっ!」

「じゃぁ何なのよ『えぇ……』って!」

「静香さんのお願いって……嫌な思い出しかないから」

「失礼ねっ、なんで嫌な思い出しかしないのよっ! 結構色んなこと教えてあげたでしょ?」

「いや、だって」


 タジタジの晃。

 一応彼女の前だぞ……さっきの勢いは何処へいった。

 つーか、静香さんに教えてもらった色んなことが気になる。


「まあ、いいわ、ちょっと喉渇いたから、そこのカフェでお茶でもしましょ」

「えぇ……」

「ああん?」

「……何でもないです」


 晃が押し負けて、再びカフェに戻った私たち。店員さんが少し不思議そうな顔をしていた。


 *


「な〜んだ、今出たばっかだったんだ。それなら言ってくれればいいのに」

「言おうとしたけど、聞く耳もってなかったじゃん!」


 確かに。


「え〜っそう?」

「そうだよ!」

「まあ、いいじゃんいいじゃん、私がここ、おごるからさ」


 あっさりあしらわれる晃。

 晃は案外押しに弱い。


「パフェ食べる?」

「……うぅ……どうしよかな」


 真剣に悩み始めた晃……えっ、なに? パフェ好きなの?

 甘いもの好きなの?


「最近ちょっと、太ったしな」


 私は全部見たから知っている。あの引き締まった、シックスパックを——晃……その発言は私に喧嘩を売っているのかね?


いつきちゃんは?」

「あ……私も……最近ちょっとお腹が」

「全然大丈夫じゃん! 若者が遠慮なんてしないの——すみませーん!」


 静香さんは、結局パフェを3つ注文した。


「お待たせいたしました」


 それが、なかなかの巨大パフェだった。


「いただきま〜す!」


 晃もだけど……静香さん、あの身体のどこにこんな量が入るんだろう。


 っていうか、人の心配をしている場合じゃないわ。こんな量食べたら……お腹がぽっこり出ちゃうかも!?


「あ、そうそう樹ちゃん、早速本題なんだけど」

「え、あ、はい」


 そういえば、お願いがあるって話だったわね。


「『継ぐ音』の打ち上げの時さ、メイクさせてくれる約束したよね?」


 メイク……やっぱりあれ、本気だったんだ。


「はい……まあ、一応」

「あれさぁ、今日にしてよ」

「えっ、今日ですか?」


 どうしよう……デート中なのに。

 でも……折角のデートだからこそ、静香さんのメイクで綺麗になりたいってのもある。

 正直、メイクのやり方とかよくわかってないし。


 晃は嫌じゃないかな?

 晃に目配せしてみると。


いつきがいいなら、俺はいいよ」


 思っていた通りの反応だった。


「やったー! 決まりねっ! よろしくねっ!」

「私の方こそよろしくお願いします」


 でも……メイクってどこでするんだろう。


「いや〜本当によかったわ、今日お願いしてたモデルの子が、急性虫垂炎になっちゃってさ」


 え……モデルの子?


「晃も、いつきちゃんの付き添い、お願いね」

「言われるまでも、ないよ」


 パフェを頬張りながら答える晃……ヤバい可愛い。


 って、そんな場合じゃなかった。


「あの、静香さん……モデルの子ってどう言う事ですか?」

「あっ、今日さ、そこでメイクアンドトークイベントやるの」


 静香さんがそこと指差したのは、さっき晃と話してた広場の事だった。


「えっ……メイクってあそこでやるんですか?」

「そだよ」

「えぇ————————————っ!」


 店内だって言うのに思わず声を上げてしまった。


「聞いてないですよ……そんなの」

「だって、今言ったもん」


 いやいやいや。


「私、無理ですよっ! モデルの代わりなんて!」

「ううん、絶対大丈夫! いつきちゃん可愛いもん!」


 ……百歩譲って可愛かったとしても、モデルの代わりなんてとても無理っ! 私、素人だよっ!


「でも、私……モデルなんて本当に……」

「大丈夫だっていつきちゃん」


 これまで、ずっとにこやかだった静香さんが、急に真剣な表情になって私に告げる。


「私は恩田おんだ 静香しずかよ——私を信じなさい」と——


 私は静香さんに気圧され、思わず「はい」と答えてしまった。


「やったーいつきちゃん! 最高のショーにしようねっ!」

「え、あ、はい」


 はじめてのデートなのに、有耶無耶のうちにメイクモデルを引き受けてしまった。


「さあ、樹ちゃん……シンデレラストーリーの開幕よ——楽しんでね」


 シンデレラストーリーって……どうなってしまうんだろう。


 私……。


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