第25話 デートその1

 待ちに待ったデート当日。あきらは迎えに来てくれると言ったけど、敢えて待ち合わせにしてもらった。

 それは勿論、よりデート気分を味わいたいからだ。


『晃ごめん、待った?』

『ううん……今来たところだよ』


 的な、定番中の定番のあれとか。


いつき、ごめん……少し、遅れちゃった』

『五分も遅刻よ!』

『この埋め合わせは、ちゃんとするから』


 的なやつも、待ち合わせないことには、起こらないイベントだ。

 

 ……デートはデート前に始まっていると言っても過言ではない。



 ——でも思い通りは行かないのも。


「「あっ」」


 デートなんだと思う。

 

「すごいタイミングだね」

「そ……そうね」


 待ち合わせ場所には、まさかの同着だった。


「早速、行く? それとも先にちょっとお茶でもする?」

「あ、晃に任せる……」

「じゃぁ、先に行こっか」

「あ……うん」


 ……なんか……晃……とても慣れてる感じだ。

 私以外とは付き合ったことがないって言ってたけど……本当なの?


 ……ていうか……今日の晃、かっこいい!

 いつもかっこいいけど、今日は帽子&メガネで可愛いカッコ系に決めてるし、ご尊顔もちゃんと拝見できるし、めっちゃいい!


 この帽子ってアキラ様ってバレない為の配慮だよね?


 なんか……まさに芸能人の私服って感じだ。

 お洒落だなぁ。


「晃は、買い物とかよく行くの?」

「うん……元々あんまり買い物とか行くタイプじゃなかったんだけど……」


 確かに学校での晃を見ているとそんな感じには見えない。


「俺のファッションセンスが酷いからって、去年は毎週末、静香しずかさんと買い物に来てたんだ……センスを磨くためだって」

「まっ、毎週末!?」

「うん……なかなかキツかったよ」


 確かに静香さんならやりかねないけど。


 でも、それって……毎週末あんな綺麗な女性ひとと買い物デートしてたってことだよね?


「最初はよく逃げ出したんだけどね……逃げたら平日も付き合わされるようになって」


 だから、あの時も逃亡防止で腕を組まれてたのね……なんでかと思っていたけど、理由が分かって納得だ。


「まあ、でも……静香さんに付き合ってもらわなかったら、買い物のやり方なんて分からなかったし……静香さんには感謝してるよ」


 うん? 買い物のやり方?

 おかしなことを仰る。


 晃の言葉が気にはなったけど、とりあえず晃について行った。


「ねえいつき、あのショップ見てもいいかな?」

「うん、いいよ」


 晃がチョイスしたショップは、目の飛び出るような価格の商品はないけど、高校生にはちょっと高いかなって感じのシンプルなデザインのものを多く取り揃えた、いかにも晃が好きそうなショップだった。

 

 ちなみに私も好きだ。晃とはやっぱ色々センスが合うな〜と思った。


 晃は、ざっと店を一周し、早速店員さんを呼んだ。


 さすが男の子、女子と違って決めるの早いわ、なんて呑気に構えていたけど、次に晃の発した言葉に、私は度肝を抜かれてしまった。


「あの、ここから、ここまでで、俺のサイズに合う服、全部持ってきてもらっていいですか?」

「……へ、ぜ、全部ですか」

「はい全部です」

「かしこまりました……少々、お待ちください」


 女性店員さんは困惑していたけど、本人は何食わぬ顔だ。


「ねえ、晃……まさかとは思うけど……全部買うの?」

「そうだよ」


 その、まさかだった。


「静香さんに教えてもらったんだけど、まとめて買うとさ、割り引いてくれるし、家に配送してくれるしさ、後でこれ買っときゃよかったって後悔もないしさ、何度も買いに来る手間も省けるし、いいことずくめだよ」


 確かにいいこと尽くめだろう。

 でも、間違えてるよ晃……普通の高校生はそんな買い物の仕方しないからね。


 ていうか、静香さん……間違えた買い物のやり方教えてるよっ!


「あの、とりあえず、1着持ってきましたので、試着してもらって、これでサイズ感見てもらってもいいですか?」

「いいですよ」

「ついでに採寸もさせてもらっても、いいですか?」

「はい、お願いします」


 店員さんに案内されて、向かった試着室で事件は起こった。


 当然のように晃は試着で、帽子とメガネを外した。

 店員さんからしたら、ちょっと変わった客を案内しただけと思っていたはずだ。


 でも……。


 あら不思議、試着室から出てくると、ちょっと変わったお客さんは。


「え……えぇぇぇ」


『継ぐ音』のアキラ様に変身していたのだから。


「うん、いい感じです。このサイズでお願いします」


 だけど、店員さんに晃の言葉は届いていなかった。


「あれ? すみません?」


 ……固まった店員さんの目の前で手を振る晃。

 なんか……この光景も見慣れた感がある。


「あ……アキラしゃまですか!」

「あっ……」


 晃は、やっと自覚したようだ。


「あ、はい……『継ぐ音』のアキラです」

「ファンです! いつも応援してます!」

「ありがとう」

「後で、サインしてもらってもいいですか!」

「いいですよ」

「やった!」


 店員さんは、アキラに会えた感動で、涙ながらに接客していた。


 とても、不思議な光景だった。


『『ありがとうございました〜』』


 サービス精神旺盛な晃は、居合わせた店員、全員にサインと記念撮影をプレゼントした。


いつき……なんかゴメンね」

「ううん……いいよ」

「一年前は、静香さんばっか注目集めて、俺はへっちゃらだったんだけどね」


 そうか……静香さんも同族だったのね……ゆっくり見られないから、あんな買い物の仕方になるのね。


 色々理解した。


 ……デートは始まったばかりだと言うのに。

 今日1日……本当に大丈夫だろうか。



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