第24話 校外学習

 今日は校外学習。

 史跡めぐりだ。


 やっぱりあきらと同じ班じゃないのはつまらないけど……もう、ちゃんと付き合ったんだし、肩肘張らないで、学校行事を楽しもうと思う。


「よっしゃー行くぞ!」


 現地に着くと委員長が妙に張り切っていた。


「えっ、どこ行くの? どこ行くの? 待ってよ猿渡さわたり!」


 そして密岡みつおかは騒がしかった。


「……たまにはこうやって、雰囲気が変わるのもいいね」

「そうだね」


 確かにこんな自然と触れ合う機会はそんなにあるもんじゃない。男子達は放っておいて優花ゆうかと楽しもう……そう思った。


「そう言えばいつきさ、浅井とはデートどこに行った?」


 うん? デート? 


 よくよく考えたら晃とはいつも、どちらかの家でまったりしてるだけで、一緒に出掛けたことは一度も無いかもしれない。


 強いて言えば……あの時の打ち上げぐらいだ。


「どうしよう優花……」

「なに?」

「無いかもしれない……」

「無いって、何が?」

「……デート」

「えっ、マジか」


 マジも大マジだ。


「いつも、どっちかの家でゴロゴロしてるだけだよっ!」

「まあ、それはそれで少し羨ましいけど」


 ……なんて言いながらも優花は苦笑いだ。


 ダメだ……デートがしたい。

 無性にデートがしたくなってきた。


「優花……私、デートしたいかも!」

「お……おう、いきなりだね」

「いきなりじゃないよっ! 私、晃と仲良くなってから随分経つけど……あのライブの時以外は、学校とお互いの家でしか会ってないよ!」

「じ……じゃぁ、誘うしかないねっ!」


 そんな話をしていると。


「おーい、今村、小森、早くこいよ!」


 委員長に呼ばれた。


「くそっ……晃と出掛けことないのに、委員長と密岡と出かけることになるなんて」

「樹……これは学校行事だよ……お出かけじゃないよ」

「でもぉーっ!」

「いや……なんなら浅井もいるし」

「でも、私の視界にいないしっ!」

「まっ、それについては、大丈夫よ。とにかく行こっか」


 ……大丈夫? どういうことだろう。


 ——男子達と合流すると……委員長ががっつりウンチクを垂れ流しはじめた。

 ふ〜ん、なるほどって事もあるけど、大半が知っていることだった。


 しかしこれは……物語のネタバレを聞かされている気分だ。

 自分で見て感じて『あっ、これが例の!』ってなるのがいいのに、これでは感動がない。


 ……退屈だ。


 それはさておき、私たちの班と晃の班は、ほぼ同じコースを巡っている。


 さっき優花が言った『それについては、大丈夫よ』とは、このことだったのか。

 さすが、親友!


 だけど……晃と同じコースなのは嬉しいけど……ちょくちょく聞こえてくる柿本かきもとの猫撫で声がウザかったりもする。


 それにしても柿本……なんであんなにベタベタしてるのよっ……ムカつくっ!

 彼女持ちだっつーのっ!

 少しは遠慮しろよっ!

 柿本に熱い視線を送っていると、私から見て柿本より手前にいた寺沢と目が合った。


 すると寺沢は。


「なあ、柿本……あれ知ってるか! ちょっと一緒に見にいこうぜ!」

「ちょっ、ちょっと何よ寺沢!? 今、あーしは浅井と」

「いいから、いいからっ!」


 慌てた様子で、浅井から強引に柿本を引き離してくれた。


 ナイス寺沢。


「どんな圧かけたのよ……いつき

「えっ、なんのこと?」

「あんたが寺沢に圧かけたんでしょ……寺沢……顔青ざめてたよ」

「うそっ! 目があっただけなのに」

「……寺沢は何か察したんだろうね」

「……別にそんなつもりじゃなかったんだけど」

「まあ、傍から見てる分には面白いからいいんだけど」


 笑顔でそういう優花。

 私にとっては笑い事ではないのだけど。


 ——委員長のウンチクをBGMに浅井たちから少し遅れて、私たちは史跡を巡った。

 

 密岡みつおかは視界からは消えているけど、声が聞こえてくるから近くにはいるのだろう。騒がしいやつだけど、こういう時、探す手間が省けるのはいい。


 浅井はというと、例の芹沢せりざわさんと静かに、見学している。


 校外学習前に彼女と仲良くなっていて本当によかった。でないと今頃、嫉妬に狂っていたかもしれない。


「もうちょっと、近付く?」

「……うん」


 優花に促され、熱弁する委員長を放置し、浅井たちに近づこうとすると。


「今村、小森こもり、ちょっと待てよ。団体行動を乱すなよ」


 委員長に引き止められた。そのセリフは、まず密岡に言えよと思ったけど、校外実習に来てまで揉めたくなかったので言葉を飲んだ。


 そんなタイミングで。


「あの、猿渡さわたりくんちょっと教えてもらえますか?」


 浅井と芹沢さんがこっちに合流してきた。


 そして……芹沢さんは委員長を質問攻めにした。

 委員長は満更でもなかったようで、得意気に御高説を垂れ流し始めた。


いつき、ちょっといい?」


 そんなタイミングで晃が向こうに行こうと指差ししてくれている。


 私は迷うべくもなく晃について行った。



 *



「やっと、2人っきりになれたね」


 みんなと、はぐれてからの晃の第一声だった。


「2人っきりになりたかったの?」

「当然! もう違う班になった時からちょっとイライラしてたよ」


 お……おう……晃も同じように感じていたんだ。


「小森さんと芹沢さんと寺沢がね、俺たちに気を使ってくれたみたいだよ。感謝だね」


 優花が言っていた『それについては大丈夫』っていうのはこのことだったのね。


 校外学習。

 晃とは別の班になったけど……そのおかげで、みんなの優しさに触れることができた。


 そして——


いつき、この週末空いてる?」

「うん、空いてるけど」

「デートしよ、買い物とか行きたいんだ」


 晃にデートに誘われた。


 


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