第23話 宣戦布告!?
高校2年の夏休みを目前にして、ついに——彼氏ができた。
彼氏いない歴イコール年齢のプロフィールとも、遂にお別れだ。
告白まではあんなにうじうじ悩んでいたけど、今は胸のつかえが取れて、とっても素晴らしい気分だ。
本当になんで、もっと早くこうしなかったんだろうと今は思うけど……それは、今こうして幸せだから、そう思えるのあって、あの時の私は、あの時で、必死だったのだ。
だけど、変わったのは私たちが決めた関係だけであって、周りからしたら、私たちは何も変わらない。
私たちは既に付き合っていた事になっていたのだから、当然だ。
まあ、それが何を意味するかというと、嫉妬シチュエーションは、付き合って尚、今も変わらず続いているということだ。
……むしろ本当に付き合ったことで、私の独占欲が増し、嫉妬心は前より強くなったかもしれない。
「せんぱ〜い、この動画のここの部分なんですけど……」
あざとく休み時間毎に晃にアプローチをかける音村さん。
付き合う前は、本当の彼女ならガツンと言ってやれるとか息巻いていたけど、実際に付き合うと……全然ガツンと言えなかった。
本当の彼女であろうが、なかろうが、言いにくいものは言いにくいのだ。
……まあ、彼女になったのだから、それとなく晃に注意してもらうって事も考えたのだけど。
「音村さん、近いっ! 本当に近いからっ!」
「えーっ、私目が悪いので勘弁して下さい」
すでに晃は注意していた。
つまり、言うだけ無駄だ。
……ていうか、何のデジャヴよ。
——彼女とは、いずれ対決する日が来るのかも知れないけど、まだ我慢できる。
今じゃない。
そして最近、私が彼女よりも警戒しているのが。
前髪で目が隠れていて、メガネで、大人しくて、クラスの皆んなともイマイチ馴染めてなくて……なんか、仲良くなった頃の晃を彷彿とさせる彼女。
そんな彼女が、班決めの後から、何故か晃に懐いてしまったのだ。
休み時間も晃は彼女といることが多くなった。
それとなく芹沢について晃に聞いてみると。
「あー、芹沢さん? あの子凄くいい子だよ。それにね、音楽の趣味がめっちゃ合うんだ、
……私と仲良くなりたいか。
晃はそう言っていたけど、それは絶対にない。
何故なら芹沢は、目が合うたびに私を鋭い目つきで睨みつけ、薄笑いを浮かべているのだから。
柿本や音村さんですら、ここまで表立って私に敵対してこないのに……意外なダークホースだ。
——そんなある日の放課後のこと。
晃の部活が終わるのを教室で待っていた私は、いつの間にか、芹沢と2人っきりになってしまった。
……気まずい。
ていうか、こんな時間に教室で何をしているんだろう……誰かを待ってる?
もしかして……晃?
とりあえず私は、スマホを見て時間を潰した。
「…………」
教室の中、沈黙が続いた。
——沈黙には心地いい沈黙と、そうじゃない沈黙があるけど……この沈黙は後者だ。
私はあまり人見知りのするタイプではないけど、流石にあそこまで敵対行為を取られた相手とフレンドリーに話すなんてことはできなかった。
——いつもならスマホを見ていると時間なんてあっという間に過ぎるのだけど、今日の時間の流れはとても緩やかだった。
そして、もうしばらくすると。
「あの……」
離れた席からではあるが、芹沢が私に声を掛けてきた。
誰もいない教室では、芹沢の小さな声ですらよく通る。
「……うん? なに?」
流石に話しかけられて無視するわけにも行かなかったから、最低限の受けごたえはした。
「今村さんは、浅井くんと付き合ってるんですよね?」
「うん……付き合ってるわ」
同級生なのになんで敬語!?
つーか……それを聞くって……もしかして宣戦布告?
「浅井くんって……いい人ですよね。今村さんが羨ましい」
それは……晃を譲ってって言いたいのかな?
絶対譲らないけど。
「そうね……ちょっと抜けてるとこあるけどね」
「そこがいいんです!」
芹沢は食い気味に私の話に乗っかってきた。
「音楽の守備範囲とか凄く広いですし」
「そうよね!」
今度は私が食い気味に芹沢の話に乗っかった。
「…………」
「晃と話すと……ほっこりするしね」
「します! めちゃくちゃします!」
「…………」
なんだろう……この空気感。
私は……この後も、晃の話で芹沢と盛り上がった。
まさかクラスメイトと自分の彼氏のいいところ言い合う合戦になるとは思ってもみなかった。
芹沢は浅井に対して特別な感情を抱いるかもしれないけど、私のそれとは違う。
話してみてよく分かった。
「浅井くんから、いつも今村さんの話しを聞いてて、いつか2人で話してみたいな……って思っていたんです」
あれっ? て言うことはまさか。
「今日は話せて嬉しかったです」
聞くと芹沢は……私と2人で話したくて教室に残っていたそうだ。
それも、晃から聞いたらしい。
そして私は芹沢のことを誤解していた。
彼女が私を鋭い目つきで睨みつけ、薄笑いを浮かべていたのは……超がつくほどのど近眼の彼女の愛想笑いだったのだ。
人って話してみないと分からない。
しみじみそう思った。
もう少し仲が良くなったら、その笑い方、めっちゃ怖いからっ! って突っ込んでやろうと思った。
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