第19話 ヤキモチ

 教室を出たところで優花ゆうかと別れた。「私、用事があるから先に行くね」とは言っていたけど……きっと私に気を使ったんだと思う。


 今日は優花に気を使わせっぱなしだ。

 むしろここ最近ずっとと言ってもいい。

 ……今度、ちゃんとお礼をしないとだ。


「ねえいつき、今日家に行っていい?」


 さっきも思ったけど……自然に名前で呼べている。


「……いいけど部活はどうするの?」

「サボる!」

「いいの……音村おとむらさん」

「……う……うん……メッセージだけ入れとくよ」


 あまり、よくはないみたいだ。

 つーか、連絡先交換してたのか……まあ、学年も違うんだし普通はするか。


 浅井がメッセージで部活が休みの旨を伝えると、間髪おかずに返信がきた。


「うっ……」


 その返信を見て表情を崩す浅井。

 つーか、うっ……ってなんだ、うっ……って。


「なんて返ってきたの?」


 意地が悪いかもしれないけど聞いてみた。

 

「あは、なんでもないよ」


 笑って誤魔化そうとしていたからジト目で見つめてやった。


「…………」


 すると、浅井はバツが悪そうな顔でスマホを見せてくれた。


 ……あざとい自撮りに画像に『明日は特別レッスンでお願いしますね★』とメッセージが添えられていた。


 浅井にスマホを返し、さらにジト目で見つめた。


「仲が良さそうね」

「ま、まあ……普通かな」


 本気で言っているのだろうか。

 普通であんな自撮りは送ってこないぞ!


 浅井がどう思っているかは分からないが、彼女が浅井のことを狙っているのは確かだと思う。

 この場合……浅井が鈍くて助かるのか、もっと敏感で警戒してくれた方がいいのかは微妙なところだ。


「…………」


 違うか……浅井は警戒する必要はないのか。

 私たちは付き合っているわけではないのだから。


 ……もし、音村さんに告白されたら、浅井はどうするのだろうか。


 音村さんは可愛いし……性格はわからないけど、ひたむきさな感じはする。

 

「…………」


 やめよう……鬱になる。


いつき……話したいことがあるんだけど……いいかな?」


 ……改まって、なんだろう。

 も……もしかして、音村さんのこととか!?


「話したいことって?」

「今話していい? それとも樹の家で話す?」


 ……なにその、含みのある言い方。

 やっぱり音村さんのことなの!?


「……家の方がいいかな」

「分かった。じゃぁ、話は家についてからで」


 今の私はメンタルがやばい……外で聞きたくない話だった時のこと考えて、家を選んだ。

 ……うぅ……本当に私ヘタレだ。


「あっ、でもさ! これだけは先に言わせてよ」


 珍しく息巻く浅井。


「なに?」

「俺、あの委員長嫌いだ!」

「……えっ」


 なんで委員長。


「彼さ……今日ずっといつきのところに来て、同じ話ばっかりしてたでしょ? 本当邪魔、空気読めって思った」


 ……どゆこと?

 ……だって浅井は?


「寝てたんじゃなかったの?」

「起きてたよ! こっそり聞いてたよ!」


 ……寝たフリしてたんだ。


「あっ、ごめんね……嫌だったよね……盗み聞きするなんて」

「ううん……大丈夫、全然聞かれて困るような話じゃなかったし」

「実はさっきもさ……半分八つ当たりだったんだ」


 うん? どう言うこと?


「八つ当たりって……なに?」

「今日1日……彼に樹が独占されてるのが許せなかった! だから……その」


 ……もしかして。


「ヤキモチとか?」

「うん……」


 浅井は……素直にヤキモチだと認めた。

 凄く嬉しかった……それと同時に、何をやっているんだう……って思いも強く抱いた。

 

 ……私も浅井も。

 なぜ、恋人というかせを外せないのだろう。


「それにね……起きてたのは今日だけじゃないよ」







「……え」





 心臓が止まるかと思った。

 ……今日だけじゃないって、あの時だよね?

 ……あの日のことだよね?

 ……キスも……告白も……全部知ってたってこと?


 じゃぁ……浅井の話したいことって……このことなの?


「でも、今日はその話じゃないんだ。まだ準備ができてないから、また今度ゆっくりね」


 え……それ以外にもまだ、他に話があるの?

 ていうか、準備が必要な話ってなに?



 完全に頭がパニックになった。



 ——家についても、その事が気になって私は上の空だった。


「うわっ……苦っ!」


 苦めが好きな私が、自分の入れた珈琲を苦く感じるほどに。


「……い、樹が苦いって思う珈琲……俺に飲めるかな」


 浅井はその珈琲に戦々恐々としていた。


 そして、ちびっと口に含み、顔を歪めてから話しはじめた。


「あのさ……いつき……怒らないで聞いてね」


 怒らないで聞いて?

 なんでだろう……私が浅井を怒ることってなに?


「……実はさ、柿本かきもとさんに俺が『継ぐ音』のアキラだって知られてしまったんだ」



 

 はぁ——————————っ!?



 え……何で?


「なんで柿本に!」

 

 私は思わず浅井の両肩を揺すり、詰め寄った。


「いや……この間のスタジオ練習の時にちょっと……」

「ちょっとってなんなのよ!?」


 浅井の話によると、この間のスタジオ練習終わりに、コンビニの前でナンパ男に絡まれていた女の子を『継ぐ音』のメンバーが助けたら、柿本と、例の軽音部の三井みつい 亜希あきだったとのことだ。


 その後、少し話してボロがでて浅井がアキラ様だと知られたらしい。


 ……だからか。


 だから……柿本が浅井にメロメロだったのね。


「教えてくれてありがとうあきら……でも明日から覚悟してね」

「え……覚悟ってなに?」


 日和ってる場合でも、ピヨってる場合でも、もにょってる場合でもなかった。


 現実として、ライバルがいるのが分かったんだ。

 体面上の彼女である以上、アドバンテージは私にある。


 明日からは……浅井は私の彼氏だってアプローチを——本気でする!



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