第18話 格好良過ぎるんですけどっ!
両親に挨拶を済ませ、私の部屋で少し話してから浅井は家路に着いた。なんでも今日は夕方から夜中まで『継ぐ音』のスタジオ練習があるらしい。
学校は休みでも、バンドがある。
やっぱり売れっ子は大変なんだなと知った。
……一方、私はと言うと——部屋でゴロゴロともにょりながら、自己嫌悪に陥っていた。
なぜなら私は——盛大に
何を日和ったかと言うと。
『私は今の関係が気に入っているの……無理に納得しようとして、言い聞かせて、今の関係がなくなるのが嫌なの』
涙まで流して、今の関係を終わらせるって……決意したはずなのに、今の関係を肯定する、こんな身勝手な主張を、浅井にしてしまったからだ。
見事に日和った。
むしろピヨったと言った方が正しいかもしれない。
頭では分かっていても、正しい行動をとることができない。
私は本当に意気地なしだ。
それでも浅井は、私のこの身勝手な主張を、全面的に受け入れてくれた。
むしろ吹っ切れたような表情で『ありがとう』とまで言ってくれた。
本当に優しいやつだ。
でも……その優しさが辛い。
「…………」
嘘です……本当はめっちゃ嬉しいです。
だからといって、このまま浅井に甘えてばかりいたら本当に、私はどんどんダメな女になるのは確実だ。
……浅井に愛想尽かされる前になんとかしなければと、気持ちだけが焦る。
*
翌週、朝のホームルームで校外学習の班決めが発表された。
私と浅井は……見事に別の班になってしまった。
ちなみに浅井は
……浅井と同じ班になりたかった。
午後のホームルームで各班に分かれてオリエンテーションが行われることになった。
尚更、浅井と同じ班になりたかった思いが強くなった。
今日は……浅井も部活だし、休み時間の間に浅井成分を補給しないと……なんて思っていたけど。
「今村、ちょっといいかな」
休み時間のたびに、委員長の猿渡に声をかけられ、その機会を逃した。
猿渡の話は、それ午後のホームルームでよくね? って話ばかりだったけど、まあ浅井も休み時間は席でずっと寝てたし、それはそれでいいかと思っていた。
——そして午後のホームルーム。
「ねえ今村! 浅井さ、軽音部に入るように説得してよ!」
校外学習の話の場なのに、最初の話題は浅井の話だった。
「ちょっと密岡、なんでいきなり浅井の話なのよ、それにそんなこと、本人に直接言えばいいでしょ」
「いや、本人に直接言っても首を縦に振らねーからさ、お願いしてんじゃん」
それは知ってる。密岡だけじゃなく、他所のクラスの
「なんで、私が言わないとダメなのよ」
「え〜っ、だって彼女でしょ、それに今村がOKだったら浅井もOKなんでしょ?」
どこで……そんな話になったんだ。
「ねーそんなことよりさ、決めること決めて、さっさと帰ろうよ」
のっけから大きく外れていた話しを
「そうだね、今村と浅井が付き合ってるなんて、どうでもいい話だもんね」
むっ……どうでもいいだと、このヤロウ。
委員長の物言いに軽く殺意を覚えた。
「でっ! 何から決めるんだっけ!?」
私の怒りを察知したのか、優花がうまく本題に誘導してくれたが。
「いや、どうでも良くねーよ! 今村と浅井だぜ? 組み合わせとして意外過ぎるだろ? めっちゃ気になるよ!」
密岡がまた私と浅井の話題に引き戻した。……ていうか意外ってなんだよ。
また浅井が地味でとかその
私はそういうのが一番嫌いなんだ。
「もうっ! あんた達いい加減にしなよ。早く決めないと私、帰るよ!」
またまたナイスフォローの優花。
「おっ……おう、悪かった」
「すまん
男子2人が優花に気圧され、ようやく本題に入れそうだ。
……なんか疲れるな。
2年になってからの大半は浅井と一緒だった。
……少し浅井と違うグループになるだけで、浅井の側の居心地の良さを感じてしまう。
……浅井の方はどうなんだろう。
気になって浅井の方を様子を伺うと。
「あーし、浅井の行くとこならどこでもいいよ……浅井が決めてよ」
「ちょっ、ちょっと近いよ柿本さん」
はぁ——————————っ!?
なんと、あの柿本が……浅井の隣にべったりと座り——デレていた。
何事っ!?
柿本は例のスマホ事件依頼、浅井にめっちゃビビってたのに。
……なんで?
……なんでこんなことになってるの?
今の私には分かる。
……あれは恋する乙女の顔だ。
もしかして浅井……あれから柿本となにかあったの?
「…………で、いいかな今村?」
「えっ、あっ、ごめん何?」
浅井のことが気になって……班のことに全然集中できなかった。
「ああ、それはちょっとあれだね!」
でも、優花がうまくサポートしてくれて、オリエンテーションは無事終了した。
……ダメだ。
胸がザワザワして、集中できなかった。
「なあ今村、まだちょっと話したいことがあるんだ。一緒に帰らないか?」
話す余裕なんてない私を委員長が誘う。
「……うん、でも私今日は……」
「今日は何? 用事でもある?」
今日は浅井も部活だ。
用事はないけど……。
「別に用事はないけど……ごめんだけど今日は、ちょっと気分じゃないから遠慮させて」
御丁重にお断りしたつもりだったんだけど。
「予定があるならともかく、気分じゃないってなんだよ、班行動だぞもっと責任感もてよ」
委員長に食ってかかられた。
班行動ってなんだよ……突っ込みどころ満載だし、言い返してやろうと思ったけど……頭が回らなくて上手く言葉が出てこなかった。
「ちょっと、猿渡、言い方あるでしょっ!」
そんな私の代わりに優花が、委員長に言い返してくれた。
「俺は今村と話してんだ、小森には関係ないだろ」
「はぁ————っ? 今、班行動とか言ったよね? 関係あるでしょ?」
なんか私のせいで一触即発の険悪なムードになってしまった。でも、その優花と委員長の間に。
「
浅井が割って入った。
「行こっ」
まるで委員長なんていないかのように笑顔で手を差し伸べてくれる浅井。
「なっ! 浅井、お前こそなんの関係もないだろ」
「関係ないのは、君でしょ?
食ってかかってくる委員長を、こともな気に退けた。
「だ、だけど……」
「だけど何? これ以上、俺の彼女にちょっかいだすなら俺もだまってないけど?」
俺の彼女……。
そして、浅井に睨まれた委員長は蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。
……なんか、普段の浅井からは想像もつかない凄みだった。
「行こっ、
……静まり返る教室。
だけど、浅井はそんな事、意にも介さず、私と優花を連れて悠々と教室を出た。
……つーか浅井、格好良過ぎるんですけどっ!
ザワザワしていた胸が——ドキドキに変わった。
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