第15話 むっつりドM
裸エプロンは冗談だったけど……今日はやけに浅井の視線が気になる。
私が浅井の方を見るとそっぽを向くけど、間違いなく太もも辺りをチラチラと見ている。
もしかして……浅井はムッツリなのだろうか。
でも、この間の打ち上げで私よりおセクシーなお姉さんたちがいたけど、全然見向きもしていなかったし、
もしかして……女子高生の太ももフェチっ!?
ダメだダメだ……浅井は浅井だけど『継ぐ音』のアキラ様なんだ、そんなマニアックな設定にしてしまったら全国の『継ぐ音』ファンに怒られてしまう。
「今村さん、ちなみに何作るの?」
……今村さんだと?
あれほど名前呼びを練習したのにまだ呼べないとか……ここは教育的指導が必要かもしれない。
「
まあまあの勢いで睨みつけてやった。
「ごめん……
……今度は自然に呼べていた。うん……やっぱり浅井には根気よく指導が必要っぽい。
「天津飯よ!」
本当はぱぱっとオムライスでも作ってケチャップで『いちゅき』とか書いてやろうかと思っていたけど、残念ながらケチャップが切れていた。
そして浅井はメニューを聞くだけ聞いて、特に何の反応もなく、辺りをキョロキョロしはじめた。
ていうか、聞いたんだから好きが嫌いかぐらい言えよ。
……はっ! もしかしてお前の血液型は⁉︎
「
やっぱりだ……この空気を読まないマイペースっぷり……後で答え合わせをしよう。でも安心していいよ、私は唯一君と相性の良いO型だから。
それよりゴムか……丁度手首に使ってないゴムをつけてるけど……うん?
「ご……ゴムってあんたまさか!?」
……マンバンヘアー!
マンバンヘアーは『継ぐ音』のライブの時にアキラ様がしていた髪型だ。
まさか浅井……今ここで『継ぐ音』のアキラ様仕様に髪の毛をくくるってこと!?
「違う違う! そっちのゴムじゃない」
へ……そっちのゴムって何。
「…………」
あっ……。
一瞬、何のことか全く分からなかったけど、赤面して
……まさかこのシチュエーションでそっちのゴムは私も想像してなかった。
浅井はさっきの裸エプロンをまだ引きずっているようだ。
「え? これでしょ? なに想像してんのよ変態」
とてもバツが悪そうな顔で浅井はヘアゴムを受け取った。
そして——髪をくくりマンバンヘアでアキラ様へと変貌を遂げた浅井は。
「……アキラ」
控えめにいって格好良すぎた。
「うん?」
「ううん……なんでもない」
なんだろう……浅井だって分かっているのに見た目が『継ぐ音』のアキラ様になっちゃうと今までとは違う何かを意識してしまう。
浅井バージョンの時は一緒にいて落ち着くし安らぐけど、アキラ様バージョンは一緒にいるとソワソワするし、落ち着かない。
でも、どっちの晃にも私はドキドキする。
1人の人間の中にこの正反対の二面性。
浅井はとてもミステリアスな男だ。
——せっかく作った天津飯はドキドキし過ぎて味がよく分からなかった。
だけど、浅井は美味しいと言ってくれていたので、それはよしとしよう。
でもまだ……私のドキドキは止まらなかった。
*
食後はいつも浅井が家に来る時のように格ゲーを楽しんだ。
「やったね! また私の勝ち! 私覚醒しちゃったかな?」
「そ……そうだね」
「あっ、何その言い方? 本気で思ってないでしょ」
「え、あ、うん……」
「よし、その喧嘩買った」
「ええっ……」
普段は全然、勝てないんだけど……薄着で密着しているせいか、浅井にいつものキレはなかった。
「だって……ほら、俺今日動きにくいし!」
「体操着なのに動きにくいわけないじゃん!」
「……そうじゃなくて、ピチってるし、密着してるし」
やっぱり密着しているせいだった。
よし……さらに密着してやろうじゃないか。
「何それは、リアルプロレスに持ち込みたいってアピール?」
「違うっ どう解釈したらその結論になるの!」
「お望みどおり、第二ラウンドよ!」
「いや、今日はまずい……色々まずいって」
「何がまずいの?」
「……だって今日は」
「問答無用! とりゃっ!」
勢いに任せて激しいスキンシップに持ち込んだ。なんだか……今日はいつもにも増して、浅井に触れていたい気分だった。
……それにしても、浅井はスキだらけだ。
私は瞬く間にマウントを取り両手首を押さえつけ、浅井をしっかりとホールドした。
「
「そ……その気なんてないくせに」
おや……珍しく強気な発言。
「あら? 本気でそう思ってるの?」
「だって、
「女の子が男を襲わないって誰が決めたの?」
私の言葉で浅井はどんどん困り顔に変わっていった。
「もしかして……襲うつもり?」
若干襲いたい。むしろこれを襲ってると言うのでは?
「襲って欲しい?」
「…………」
浅井はすぐには答えなかった。
前々から思っていたけど、浅井はきっと——ドMだ。
「……黙ってるって事は、そうなのね?」
「…………」
それでも浅井は黙っていた。
そして顔を若干紅潮させ、なんとも言えない表情に変わっていった。
「襲ってあげてもいいけど……
「え……それって、どう言う意味?」
「そのまんまよ、私になされるがままよ」
浅井の表情を見て私は確信した。
この……むっつりドMめっ!
私は浅井の耳元でヒソヒソ話しをする様に「晃のエッチ」と囁いてやった。
すると浅井は「ひゃぁっ!」過剰に反応した。
何……この可愛い反応。
「えっ、何? 今ので感じたの? 晃って耳が弱点?」
浅井は必死で首をぶるんぶるんと横に振っていたが、それが精一杯の抵抗である事は見て取れた。
面白くなってきた私は、執拗に浅井の耳を攻め立てた。
「ひっ、い、
ヤバい……楽しい……浅井がドMなら私はもしかするとドSなのかもしれない。
「やめてあげな〜い」
「〜〜っ」
めっちゃ楽しかった。
男の子があんな風に喘ぐなんて思ってもみなかった。
「晃の弱点発見だね」
「……確かに弱いけどさ、耳なんて誰でも弱いんじゃないの?」
「それは、晃も私の耳を攻めたいってアピールかな?」
「いや、違っ」
「違うならいっか」
私は髪をかき上げて浅井を挑発した。
「正直に言ってみ?」
浅井は頬を赤く染めムニムニしていた。
本当はやってみたいんだよね。
知ってるよ。
「はい、時間切れ、バカ、エッチ、ブー」
でも、ここの主導権は渡してあげない。
今奪うのは心だけにしてねっ!
こうして2人っきりの夜が更けていく。
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