第8話 聞いてないんですけど……
なんで……なんでここにアキラ様がいるの!?
なんで私の名前を知ってるの!?
呼び間違い?
聞き間違い?
もしかして他人の空似?
幻覚でも見てる⁉︎
一旦深呼吸をして、もう一度目を凝らして見てみても——
「…………」
ご本人じゃん!
どこからどう見てもアキラ様じゃん!
ライブ終わりだからなのか、ほんのり滲む汗がセクシーなアキラ様。
ヤバい……格好いい。
心臓が止まりそう。
「あれ、今村さん?」
目の前に何かがチラついている。
アキラ様が私の目の前で手を振っているようだ。
だけど私は、この異常事態にすぐに反応することが出来ず、しばらく呆然としていた。
——これは夢?
だって……アキラ様だよ?
今……若者の間でカリスマ的人気を誇る『継ぐ音』のアキラ様が目の前にいるんだよ?
インディーズって聞いているけど、芸能人みたいなもんだよ?
さっきまでステージに居た人だよ?
何で……何で⁉︎
「今村さん、大丈夫?」
「だ……大丈夫です」
な……生アキラ様。
しゃがれ声が素敵っ!
いやいやいや、今はそんな事よりも、何でアキラ様が私の事を知っているかよっ!
もしかしてテレビのドッキリかも知れないし、恥をかく前にちゃんと確認しないと。
「……あ……アキラさん……どうして私の名前を」
「どうしてって……そりゃ、同じクラスだし」
「……へ」
お……同じクラス?
何それ……格闘技とかのヘビー級とか、ライト級とかそういう階級のこと⁉︎
「あ、あ、あ、アキラさん……同じクラスって、どう言う意味ですか?」
アキラ様が眉を八の字にして、何で? って顔をしている。
「今村さん、俺、浅井だよ? 浅井晃」
……えっ。
一瞬時間が止まったかと思った。
……浅井?
もし、アキラ様の言っている事が本当なら、色々と説明がつくけど——
「……今村さん?」
「…………」
「えぇ————————————————っ!」
私は声を上げて驚いた。
むしろ人生最大級に驚いた。
「……浅井って、あの浅井?」
「隣の席の浅井くんだよ」
「……浅井って、私の彼氏の……」
「彼氏役の浅井だよ」
「で……でも、髪型とか凄い格好良いし、ピアスとか開けちゃってるし、見た目とか、声とか全然違うじゃん!」
「見た目はほら……ライブだし、声はちょっと、今日張り切り過ぎて
「ちょっ……ちょっと待って、浅井がアキラさんで、アキラさんが浅井……」
「今村さん、俺が『
——衝撃の告白だ。
浅井がアキラ様だったなんて……。
ていうか私……同じく
「今村さん、もし時間あるなら『継ぐ音』の打ち上げくる? そしたら、もっとゆっくり話せるし」
「め、め、め、滅相もない! 恐れ多いよ」
「恐れ多いって……」
「だって私、ファンだもん」
それに、これ以上情報が増えると頭がパンクしてしまう。
「嬉しいよ、ありがとね」
「い……いえ、どういたしまして」
「どうしちゃったの今村さん?」
「どうしちゃったも何も……まだ、混乱してるのよ」
「え……なんで」
「な、なんでって『継ぐ音』のアキラよ? ウチの学校でもファンの子めっちゃ多いんだよ? 女子高生の中では超有名人だよ? それがウチの学校で、同じクラスで……私と一番近い浅井だなんて……驚くなって方が無理よ!」
「そ、そうなんだ……知らなかったよ」
「私は『継ぐ音』のファンだって言ったし!」
「……そう、だったね」
……まあライブに行くほどとまでは話していなかったけど。
それよりも——
「何で教えてくれなかったの?」
「なんか、タイミング逃しちゃったし……わざわざそれだけ言うのも格好悪いし」
なるほど……それは確かにそうだ。
でも——衝撃が強すぎるよ!
*
この後も、色々と話した。
まず、見た目の違いは別に正体を隠している訳ではなく、本当に朝が弱くて髪をセットしていないだけとのことだった。
まあ、それは散々聞いているから信用に足る情報だ。
眼鏡はダテで、前髪が目に入るのを防いでいるだけだそうだ。
そして、昼間一緒に居た美人さんは『継ぐ音』のスタイリストさんだった。
腕を組んでいたのは浅井の逃亡防止の為とのことだ……つまり、完全に私の勘違いだった。
あの時、浅井の言葉に耳を傾けていれば、何も拗れなかった。人の話しはちゃんと聞かないとだめだって教訓だ。
そして私は、色々分かって安心したと同時に、新たな問題が発生した事に気付く。
私は今日、あの出来事があって浅井の事が好きだと気付いた。
自分から彼氏役になってくれとお願いをした手前、とても言い難いんだけど——今更ながら、この気持ちを告白しようと思っていた。
「…………」
だけど——この展開は想定していなかった。
『継ぐ音』のアキラ様だと知った途端に告白したら……あまりにもあからさまじゃん!
好きだった人と好きな人が同一人物だってのは、とても嬉しいけど——
告れねぇ————————っ!
何て頭を抱えていると。
「晃! こんなところに居たのか!」
「おや、彼女さんも一緒ですね」
「打ち上げ行くぞ! 打ち上げ!」
「彼女さんも、一緒に行きましょう」
「え、あっ……はい」
私たちは『継ぐ音』のメンバーに連行された。
あまりの怒涛の展開に理解が追いつかない私だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます