第2話 浅井は見かけによらない
「
彼女は
中学からの付き合いで、数少ない私の親友だ。
身長は158センチ、ショートヘアーが似合う、可愛い系女子だ。
「うん、あいつクソ面白いんだよ」
「そうなの? 髪ウザイし、メガネだし、色白だし、ずっと席でスマホいじってるし、オタクなのかなって思ってたけど」
私も最初はそう思っていた。つーか、今もスマホいじってるし。
「確かに、ぽい所もあるけどね……でも話したら返しとかめっちゃ面白いし、聞き上手だし、ほっこりするし、何気に楽しいやつよ」
「そうなんだ……聞き上手ってのはポイント高いね!」
「そうなのよ、優花も話してみたら分かるよ」
「じゃ、今度私も話してみようかな」
「……うん」
あれ? なんだろう……自分で進めといてちょっと嫌だなって思ってしまった。
「それにしても……意外な組み合わせね」
「何が?」
「樹は派手っつーか目立つじゃん、でも浅井は地味で目立たないじゃん……対極の二人っつーかね」
「う〜ん、そんなこともないと思うんだけどな」
「
「寺沢はそういうオラついてるところがダメなんだよな〜話面白いし、嫌いじゃないんだけどね」
「あは、確かにオラついてるね……で、実際のところ浅井とはどうなの?」
「どうとは?」
「付き合ってるって噂じゃん」
「う〜ん」
いつの間にか私と浅井はクラスで噂になっていた。
浅井と話しているのが、あまりにも楽しくて学校にいる間は四六時中一緒にいるからだ。こうやって優香と二人で話すのも地味に久しぶりだったりする。
「気にはなるけど……まだ、よく分かんないや」
「ふ〜ん、あっもしかして、まだアキラ様ひとすじとか?」
「ううん……流石に現実分かってるからね、そんなこともないんだけど」
——アキラ様とは今、若者を中心に爆発的な人気を博す、ロック系バンド『継ぐ音』のギターボーカルのことだ。私が唯一追いかけている流行り系アーティストかも知れない。
「まあ、あれから『継ぐ音』めっちゃ人気でたもんね」
実は私と優花は『継ぐ音』が今ほどの人気じゃなかった頃、アキラ様とちょっとした縁があった。
そして異性に耐性がなかった私は——チョロリとアキラ様に一目惚れしてしまったのだ。
「あれぇ、あーしのスマホないんだけど」
私と優花が思い出トークに浸っていると、あまり私と仲の良くない
「さっき移動教室だったし、忘れてきたんじゃないの?」
「ん〜、忘れそうだからカバンに入れてたんだけどな〜クソうぜえ」
「鳴らしてあげようか?」
「あっ、頼める?」
……着信音は、私の席の方から鳴った。柿本の席は私の席から4列ほど離れた席で優花の席の2つ前だ。カバンに入れたのなら私の席の方から鳴るのはおかしい……これはもしかして。
「こっちから鳴ってるよね」
柿本は私の席まで移動し——
「あれ? もしかして今村のカバンからなってる? 今村……もしかして盗んだ?」
クラスの皆んなに聞こえるぐらい大きな声で私に絡んできた。
「え、今村……柿本のスマホ盗んだの?」
「まじかよ……」
「盗みって……やばくね?」
「いや、今村さん、そんなことしないっしょ」
柿本の言葉を信じる者、疑う者、クラスの反応は半々って感じだった。しかし、いずれにしても——
「盗まないわよ」
冤罪もいいところだ。それに盗むメリットがないし、柿本がカバンにスマホを入れていたことも知らない。
「じゃぁ、なんで今村のカバンから鳴ったん?」
「柿本のスマホなんて知らないわよ」
そんなやりとりをしていると。
「今村のカバン調べさせてもらえば?」
「そうだよね、それが一番手っ取り早いよね」
柿本の取り巻きの女子達が私への疑いを強めた。
その喧嘩……買った。
「いいわよ、調べてみて」
私は盗んでいない。だから普通にそう言ってやったが……なんか強烈に嫌な予感がしてきた。
これって……もしかして柿本か誰かのハメじゃない?
予め柿本か悪意ある第三者が柿本のスマホを私のカバンに仕込んで、私を陥れようって魂胆じゃないの?
この間も消しゴムやられたばっかりだし……立て続け?
——なんか自分でフラグを立てた気がした。
「今村、調べるよ」
「……いいよ」
出てくるはずがない。
……普通は出てくるはずがないのだ。私は盗んでいないのだから。
でも、もし出てきたらどうしよう。
やだな……先に自分で調べればよかった。
「待って、柿本さん」
柿本が私のカバンを手に取ったタイミングで浅井が柿本を制した。
「これ柿本さんのスマホじゃない? 俺の鞄の下に落ちてたよ」
「え、なんで浅井が持ってんのよ!?」
「なんでって……落ちてたからだけど」
「そ、そんなはずじゃなじゃない、確かにカバンに……」
カバンにだと……⁉︎
「カバンになに?」
「え……ううん、なんでもない……ありがとう」
そして、浅井は何事もなかったかのように、席に戻ろうとする柿本を呼び止めて。
「柿本さん、待って」
「な……なによ」
「ちゃんと、今村さんに謝らないと……人のこと無闇に疑ったらダメだよ?」
……私に謝罪させた。
「……ごめん、今村」
「いいよ、誰にでも間違いはあるし」
「良かったね、柿本さん……今村さん優しくて……もし、これが俺だったら」
そしてあの、大人しい浅井が——
「顔の原型なくなるまでボコってたと思うよ」
私のために、怒りを露わに柿本を脅していた。
「冗談だよ、冗談……本気にしないでね柿本さん、お詫びに面白い物、見せてあげるよ」
浅井がスマホを見せると柿本は顔面蒼白になり、浅井は何事もなかったかのように自分の席についた。
*
昼休み私は浅井を屋上に誘い、お礼を言った。
「浅井……さっきはありがとうね」
「なんのこと?」
「柿本のあれ……」
「ああ、あれね……でも今村さんは何もやってないんだし、お礼なんて言わなくても大丈夫だよ」
「そうかもだけど……」
「気にしないで」
気にするなと言われても、色んな意味で気にはなる。
「ねえ、柿本に何見せてたの?」
「ああ、これだよ」
浅井はスマホの動画を見せてくれた。そこには私のカバンにスマホを入れる柿本の姿が映っていた。
「柿本さんの悪事の証拠」
「あいつ……やっぱり、私をハメようとしてたのね」
「うん……もっと容赦なく断罪した方が良かった?」
「ううん……あれで充分だと思う」
柿本……ガチでビビってたし。
「柿本さん……俺が隣にいるのに堂々とやってたよ」
「え……なんで?」
「きっと俺に気付かなかったんだよね……自分の影の薄さに少し悲しくなっちゃった」
ステルス性高っ!
「まっ、まあ、そのおかげで、私助かったし!」
「そうだね、その点は良かったと思うよ」
しかし浅井……案外エグい脅ししてたんだなぁ。
「あっ! 今村さん! 俺勝手に今村さんのカバン探っちゃった!」
「いいわよ、そんなの」
意外な一面を見せつつも、気にするところはそこなんだ。やっぱり浅井は浅井だった。やっぱりほっこりする。
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