黎智と結智
帰宅した黎智はテーブルにスマホを置いて、深呼吸を数回繰り返していた。
まずは結智の声が聞きたい。
出て行った理由も知りたいが、黎智としては結智が家に帰ってきてくれるかが一番知りたかった。
「結智に電話するのに、こんなに緊張するのは初めてだ……」
何回目かの深呼吸の後、意を決した黎智はスマホを手に取ると玄理に教えてもらった電話番号を押した。
コール音が鳴る。
【……もしもし】
数回のコール音の後、少し沈んだ結智の声が聞こえた。
「もしもし、結智?」
【うん……】
「えっと……元気にしてる?」
何から口火を切れば良いのか分からなかった黎智は、取り敢えず無難な質問をする。
【うん。元気だよ】
「そう……」
そこからまた会話が途切れた。
結智も黎智からの質問を待っているのか、何も言わず待っている。黎智がするであろう質問の内容もきっと察しているはずだ。ただ自分からどう言えば良いのか迷っているのだろう。
『結智は覚悟を決めている』
どう訊ねようかと思案していると玄理の言葉を思い出した。
そうだ。連絡先を教えてくれた時点で結智の覚悟はできている。逃げずに、何も隠さず全てを明かす覚悟を。
なら、俺は――。
「結智。帰ってきて」
【……】
「帰ってきて、たくさん話そう。俺に結智のことをもっと教えて」
【……でも】
戸惑う結智に「俺さ」と黎智が続ける。
「結智と話せないのが一番嫌なんだ。ずっと一緒にいて、何やるのも一緒で、一緒にいる時間が楽しくて、結智といる時は時間があっと言う間に過ぎてった。そんな当たり前だと思ってたことが突然なくなって、どうすれば良いのか分からなくなって、しばらく途方に暮れてた。いなくなったのは理由があるんだと思っても、やっぱり結智と居たくて必死で探した」
【黎智……】
「だからちゃんと話したい。どんなことでも全部聞くから、帰ってきて欲しい」
受話器越しに鼻を啜る音が微かに聞こえる。黎智の言葉に結智が泣いていることが分かった。
【……うん。すぐ帰る。帰るから……待ってて】
涙声だったがしっかりと帰ると言ってくれた結智に、嬉しくなった黎智は電話越しに微笑むと「気をつけて帰っておいで」といつもの返しをした。
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