世知辛い世の中
「純ちゃん。ありがとう」
バックヤードから出て来た玄理と黎智に、視線を投げた純二が「解決した?」と短く訊ねる。
「はい。玄理さんのお陰です」
「そう。良かったわ」
「咲月さんの知り合いが結智の連絡先を教えてくれたんだ」
黎智の後から姿を出した玄理が省略して説明した。
「そうなの? 良かったじゃない」
「純二さんにもお世話になりました。今日はこのまま帰ります」
黎智はそう言って、ソフトドリンクの代金を支払うために財布を出した。
「いいわよ。今日は私の奢りで。早く帰って結ちゃんとちゃんと話をしなさい」
「……ありがとうございます」
純二に深々と頭を下げ、姿勢を戻した黎智は玄理に視線を向ける。
「結智と連絡を取って全て解決できたら、最後にお礼に伺っても良いですか?」
必要以上にアンロックに来るなと言った玄理の言葉を気にして、黎智が窺うように訊ねてきた。
「最後、ならね」
釘を刺すように言う玄理に苦笑した黎智はコクリと肯くと、再度二人に頭を下げ黎智はアンロックを後にした。
「玄ちゃんは厳しいわね」
黎智が消えたドアを物思うように見つめつつ呟く純二に、玄理はちらりと視線を投げる。
「黎智が自分の意思でこっちに来たいなら良いけど、そうでないなら世間一般的でいうまっとうな道を進んだ方が良い」
同性相手にどれだけ純粋な想いを抱いていても、傍から見ればそれは不純ととられてしまう。ストレートで生きてきた人たちに理解されることは……多分一生ないのだろう。
だからといって自分を恥じることはないと玄理は思っている。恋愛対象が同性だっただけだ。それ以外何の違いもない。それだけで自分を否定される謂れもないと思っている。
今の時代、玄理のようなLGBTの人を否定するのはナンセンスだ。最近では日本でも表立って議論されることも多くなってきた。世の中に認知されつつあるのは確かだと思う。
だが悲しいかな、未だ理解されないのが現状だ。人々の意識に深く根付いているものを個々人がどう頑張っても変えることは難しく、結局周りからは異端児扱いされる。
そう気付いてから、玄理は人の目を気にしないようにすることにした。これが自分であり自分の生き方なのだと、どこか諦めにも似た持論があるから。
本当に理解して欲しい人たちには……理解してもらえない。
「でも、玄ちゃんは誰よりも優しいわね」
「……え?」
「私には分かってるわよ」
純二の言葉に玄理は微かに瞠目した後、目を細めふわりと笑った。
徐々に暗くなる思考から抜け出せなくなる前に純二の言葉に助けられた玄理は、心の中で密かに純二に感謝しつつ目の前に出された冷えたビールを喉に流し込んだ。
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