前日談

「え、見つかった?」

 咲月から電話連絡がきたのは、黎智と約束した一週間を翌日に控えた日だった。

 それまでは、有力な情報が得られなかったことを黎智に告げることに申し訳なさを感じていた玄理だったが、咲月からの連絡で杞憂に終わりそうだ。

【友人に聞いてみたら、結智くんにアンロックを教えた人と繋がったんだ】

「教えた? じゃあ、無理やりアンロックに連れて行かれたわけじゃないのか」

【だと思うよ。結智くんから連れて行って欲しいって頼まれたらしいから】

「何でだろう?」

 不思議そうに聞き返した玄理に、咲月は【詳しいことは……聞けなかった】と少し言い淀んだ。

 珍しい咲月の様子に怪訝気に眉根を寄せた玄理だったが、【だけど】と続いた言葉に思考を戻された。

【結智くんに、黎智くんが必死になって捜してることを伝えてもらったら、連絡先だけ教えてくれたんだ】

「ほんと? じゃあ、黎智に連絡先を伝えても良いってことだよね?」

【そうなるね。後でLINEで連絡先送るよ】

「分かった。咲月さん、ありがとう」

【お礼なら玄理の熱いキスが欲しいな。その後、甘い時間が過ごせるとなお嬉しい】

 ふふっと笑って言う咲月の冗談のような誘いに、くすくす笑いながら「了解」と玄理も合わせて答える。

【じゃあ、仕事に戻るよ。また連絡する】

「ほんと、ありがとう」

 再度、礼を言ってから玄理は咲月との電話を切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る