第27話 今更プロローグ

 メッセージ色が強い歌詞と独特の世界観で若者を中心に絶大な人気を誇るロックバンド『継ぐ音』


 ボーカルギター、ベース、ドラムの3人編成とは思えない程の重厚なサウンド、幻想的なまでに絡み合うアンサンブル、そして力強くも憂いのある透き通るような声が聴衆の心を掴んで離さない。


 ライブが決まればチケットは即日完売、新譜を出せば音楽配信サイトで上位にランクインする。

 ロック界に突如として現れた超新星だ。


 ——だが、『継ぐ音』の曲にラブソングはない。


 それは『継ぐ音』の全曲を手掛けるボーカルギターであるアキラこと浅井あさい あきらつまり俺に——


 恋愛経験がないからだ。


 恋をしたい気持ちはあるし、彼女だって欲しい。だけど俺は高校二年、16歳になる今日まで、彼女どころか、まともに恋すら経験したことがないありさまだ。

 学校は共学だし『継ぐ音』関係者にも女性は多い。だけど、その恵まれた環境を活かせないほどに、俺はヘタレなのだ。


 ……いわゆる陰キャに属する人間だと思ってもらって差し支えない。


「おっすあきら

「おはよう健太郎けんたろう


 こいつは俺の数少ない友達のはやし 健太郎けんたろう。俺と違って陰キャに属する人間ではない。


「ついに来たな、運命の日が」

「えっ、なに? 運命の日って」

「今日から新学期だろ、クラス発表じゃん、もし今回も一緒だったら、連続記録更新だぜ」

「ああ、そうだったね」


 そう、俺と健太郎は小学校1年から高校1年までの10年間、ずっと同じクラスだったのだ。


「……もし、そうだったら凄い縁だよね」

「ああ、もし一緒のクラスだったら今日一テンション上がるわ」


 それは俺も上がる。11年連続で同じなんて、中々あるものじゃない。もしこれが健太郎が女子だったら、運命の赤い糸で結ばれていると勘違いしてしまうレベルだ。


 なんて、ありもしない妄想を膨らませつつ掲示板に向かうと——


「「あっ」」


 ……運命は俺と健太郎をついに引き離した。


「まじか……俺めっちゃショックだわ」

「……うん、そうだね」

「おい、でもあきら……お前、今村と同じクラスだぜ」

「えっ、今村って誰?」

「うそっ!? お前今村のこと知らねーのかよ」

「……うん……知らないかな」

「今村のことを知らない奴なんて……いるんだな」


 そんなに有名なのか。


「めっちゃ可愛いから、楽しみにしてろよ。きっと惚れるぜ」

「そこまで、なんだ」

「そこまでだ、なんせ性格もいいって噂だからな」

「なにそれ……完全無欠じゃん」

「まあ、楽しみにしてろよ、じゃぁ、またな」

「ああ、また」


 ——掲示板で健太郎と分かれ教室に移動した。そして教室に着くと、黒板に座席表が張り出してあった。


 張り出してある座席表を見て、俺は少し気分があがった。なんと俺の席は……今村さんの隣だったのだ。


 ……もしかして、これがきっかけで俺の灰色の高校生活が変わるかも!?


 ——なんて一瞬だけでも思った俺は、本当に学習能力のない愚か者だった。席が隣なだけで、話しかけもせずに高校生活が変わることはなかった。


 今村さんなら何か話しかけてくれるかも? って淡い期待はあったけど、16年間変わらなかった運命が変わるはずもなく、今村さんに一言も話しかけないまま、彼女いない歴17年目に突入した。


 ——この時の俺は、彼女いない歴17年に終止符がうたれることを、まだ知らない。





 ————


 【あとがき】

 

 今更のプロローグでした笑

 健太郎くん……本編にまだ一回も登場していないですが、いつか!


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