第25話 たまたまの積み重ね

「私もあきらが好き。だから彼氏になってください」


 その瞬間、時間が止まったような錯覚に襲われた。


 聞き違いじゃないよね?

 いつき……俺のこと好きって言ったよね?


 ……しばらくすると、とめどなく形容し難い高揚感が溢れだしてきた。


 これはドキドキを通りこして……アドレナリンが溢れているのだろうか。


「樹……嘘じゃないよね?」

「……嘘じゃないよ……私は晃のことが好きだよ」


 体の力が抜けて、涙腺が緩んでその場に崩れそうになったけど——


「樹っ!」


 なんとか堪えて樹を抱きしめた。


「晃……私、まだ返事を聞いてないのだけど?」


 返事……それは俺も聞いていない。だけど、今言うべきことはそれじゃない。


「はい……不束者ですが、よろしくお願いします」

「何それ……不束者って、ウケるんだけど」

「いいんだよ……伝わったでしょ」

「うん……晃の気持ち伝わったよ」


 そう告げると……樹は俺の首の後ろに手を回し唇を奪った。


 頭がとろけそうになった。

 どうにかなりそうになった。

 

 はじめての……ディープな方のキスだった。


 告白に告白を返されるという形になったが、俺の人生初の告白は両想いという最高の結果に終わった。



 *



あきら……私の好きだった人の話し……聞いてくれる?」


 俺と同名のアキラくんか。


「……もちろん」

「私の好きだったアキラくんはね、実は……晃なの」

「うそん!」

「うそんってなによ……本当よ」

 

 ……アキラくんが俺?

 ……てことは。


「それはつまり『継ぐ音』の俺が好きだったって事?」

「まあ、結果的にはそうなんだけど正確には違うわ……私は『継ぐ音』のアキラくんを『継ぐ音』と知らないで好きになったから」


 何そのレアケース。


「覚えてない? 晃は私と優花ゆうかにずっと前に会ってるんだよ?」

「えっ? マジっ? いつ?」

「……やっぱ、覚えてないよね」


『継ぐ音』は、関係者が多すぎて正直覚えきれていない。


「うん……ごめん」

「思い出すまで教えてあげないよ!」


 まじか……これはちょっとハードル高いな。

 つーか……思い出したら教えてもらう必要ないじゃん。


「まあ、それは別に大した問題じゃないの」

「え……そうなの?」

「私……好きだったアキラくんも晃のことも『継ぐ音』って知る前に好きになったの! これは大切なことだから絶対に覚えていおいてね!」

「う……うん」

「……まだ分かってないって顔してる」

「……あはは」

「まあ、私が意識し過ぎだったのかもしれないけど……晃が『継ぐ音』のアキラって知って……好きっていうとタイミング的に気持ちを疑われそうじゃん」


 そうか……『継ぐ音』がいつきの足かせになっていたのか。

 でも——


「それは意識し過ぎだったかもしれないね」

「もうっ! そういうことは思ってても言わないでよ」

「ごめん、ごめん……でもさ、付き合いは短いかも知れないけど、俺は樹の人間性をよく知っているつもりだよ……樹はそんなことで手のひらを返さないって」

「晃……」

「それにね……いつきになら『継ぐ音』きっかけで好きになってもらえても嬉しい……俺はそれほどに、樹のことが好きなんだよ」


 樹の顔が見る見る赤くなっていった。


「ばかっ! そういうところよ」

「……そういうところ?」

「晃のそういうところが、好きよ」


 今度は自分の顔が赤くなっていくのが分かった。


「晃……私の好きなところ10個言ってよ」


 悪戯っ子の顔になり、じぃーっと俺を見つめる樹。


「付き合いたてホヤホヤの恋人同士だよ? 言えるよね?」


 なんだろう……告白から一転この展開は。


「いきなり、そんなことを言われても、直ぐには……」

「え……言えないの? 何それ?」


 あれ? もしかして今……ピンチ?


「冗談よ、冗談……晃にドキッとさせられたからドキッとの倍返しよ」


 きっと俺の与えたドキッとはこんな心臓に悪いものではないはずだ。


「でも……私たち、付き合っても周りからすると何も変わらないんだよね」

「そうだよね」

「ごめんね晃……」

「何が?」

「晃と仲良くなって……軽い気持ちで頼んだんだけど、晃にとってはそうじゃなかったんだよね」


 確かに彼氏役は軽い気持ちで出来ることではなかった……でも——


「確かに悩んだけど……嬉しいことの方が多かったよ。だから謝んないでよ」

「そっか……じゃぁ取り消す。晃、謝って?」

「ごめんなさい……ってなんで!?」

「ノリいいね! そんなところも好きだよ」


 好き……さっきもだけど、不意に言われると思いっきり照れくさい。倍返しはこっち系だけでお願いします。


「あっ……そうだ曲はどうだった?」

「曲……もちろん良かったよ! ロックバラードになるんでしょ?」

「うん、ロックバラードになるよ」

「『継ぐ音』で演る日を楽しみにしてる!」

「うん……ねえ樹、もう一回歌ってもいい?」

「別にいいけど……どうして?」

「緊張でミスし過ぎた」

「あはは……そこはミュージシャン魂なんだね」

「うん」

「聴かせて……晃の歌」

「うん」



 たまたま席が隣だったから——

 たまたま消しゴムがなかったから——


 きっかけは些細なことだっだけど、それが俺たちの運命を紡いだ。


 たまたま音楽の趣味が完全一致したこと。

 たまたま寺沢が部室で告白したこと。


 そのどれがなくても、今の俺たちの関係はない。


 たまたまの積み重ねが、この運命の出会いを作ったのだ。


 ————


 【あとがき】

 

 逢坂です。

 ここまで読んでいただいて、

 ありがとうございます。

 そして——たくさんの応援ありがとうございます。


 とりあえず完結ではないではありませんが、ここで一旦の区切りとなります。


 本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、

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 いつき視点の物語公開しました。

『クラス1地味な浅井くんに彼氏役をお願いしたけど……マジ惚れしたから付き合ってとか今更言えない』


 https://kakuyomu.jp/works/16816410413951155418


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