第23話 はじめての
……今日は朝からソワソワしているのが自分で分かる。
楽しみで仕方ない出来事があるからだ。
今日は
そう……つまり今日は——
この日に合わせて俺は、あるサプライズを用意している。
「ねえ
「うん、見てきた……予想通り空っぽだったよ」
「そう……じゃあ予定通りスーパー寄って行こうか」
「……うん」
学校帰りにスーパーで買い物……そんなラブコメイベントみたいな事が現実に起こり得るなんて……
「どうしたの晃……もしかして照れてる?」
「……若干」
「可愛いな晃は」
なんて言いながら頬をツンツンしてくる
元々オープンな性格だったけど、家に泊めてもらったあの日以来、
……学校でも寝技以外のプロレス技なら掛けてくる程に。
これには付き合いの長い、小森さんや寺沢も驚いていた。
「何か食べたい物ある?」
食べたい物か……「肉?」ぐらいしか思い浮かばなかった。
「草食系なのに肉が好きなの?」
……草食系。やっぱ分類すると俺はそうなるのか。
「うん……脂身は苦手だけど、赤身の肉が好きなんだ」
「よしっ、じゃあ唐揚げにしよう!」
「えっ」
「何? 不満なの? 唐揚げも肉だよ?」
「不満なんてないよ⁉︎ 唐揚げも大好きだし!」
「じゃあ、問題ないよね!」
問題はないけど……俺のリクエスト。
そして、スーパー迄の道中で事件は起こった。なんと……
しかも、指と指を絡め合うこの繋ぎ方は——恋人繋ぎだ。
「どうしたの?」
驚いて
「また、照れてるの?」
「……うん」当然照れている。
「不思議な人だね、晃って」
何が不思議なのか分からないけど、俺から言わせると
学校からスーパーまで、歩いて10分は掛かる距離なのに、ほんの数十秒で着いたと錯覚する程、あっという間に着いた。
……そして
「大丈夫よ、また繋いであげるから」
未練がましそうにしている俺に、
色々見透かされているようだ。
——2人カートを押してキャッキャウフフしながら食材を選ぶ。そんなシチュエーションは待っておらず、
「買い物って、いつもこんなに速いの?」
「そんなこともないけど、今日は作る物も決まってるし、明日も学校だからダッシュで選んだよ」
なるほど……今日はゆっくり買い物タイムを満喫する条件を、一切満たしていなかったようだ。
*
ウチのマンションに到着した
「うわ……いいマンションに住んでるのね」
だった。
「……そうでもないよ、中は普通だよ」
「怪しいなあ〜」
「上がれば、分かるよ」
「それもそうだね!」
ウチのマンションのエレベーターに
「おじゃまします……っていうか、広っ! っていうか、めっちゃお洒落だね」
「荷物が少ないだけだよ」
実際のところ広さは
「あっ……言われてみればそうね……ウチと違って恐ろしいほど生活感がないわね」
「まあ、実際あんまり生活してなかったりするんだけど」
「あはは……笑えねー」
流石の
「よっしゃ! じゃあ、美味しい唐揚げ作る前に……」
「まず、晃の部屋を物色しないとね!」
「物色って……何もないよ」
「男は皆んなそう言うんだよ!」
皆んなって……誰!?
「つーか、部屋どこよ!」
「突き当たりの部屋だよ」
「よっしゃ!」
初めて
「うわっ! すっげー!」
俺の部屋に入った
「壁一面にギターが掛かってるとは思わなかったわよ……これ全部でいくらしたの?」
「エンドースでメーカーから提供してもらった物が大半だから、殆どタダだよ」
「えっ……タダ? 無料?」
「……うん」
「え————————っ!」
「……そんなに驚かなくても」
「驚くわよ……でも、なんでタダでくれるの?」
「広告の一環らしいよ……契約の事はエージェントに任せてるからよく分からないけど、ウィンウィンって言ってた」
「そうなんだ……流石『継ぐ音』ね」
「俺たちだけの力じゃないけどね」
「そんな事ないよ! 実力だよ! 私、晃の歌もギターも有名になる前から好きだよ!」
「……ありがとう」
……なんて嬉しい言葉なんだ。
「……やっぱりミュージシャンなんだね!」
「一応ね」
「ねえ後で、一曲聴かせてくれる?」
「もちろん、まだメンバーにも聴かせていない新曲があるんだ」
「……それを聴かせてくれるの?」
「うん……だって
「えっ……」
「後で、聴いてね」
「……う、うん」
俺のサプライズは、この新曲だ。
この曲が今の関係を崩さずに、この気持ちを伝えるための1つの俺の答えだ。
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