第20話 同じ気持ち

あきら、うちのパパとママ。で、こっちが私の彼氏の浅井あさい あきら


 雑に紹介されたけど……今村さんのご両親は——めっちゃ若かった。


「……はじめまして浅井です。昨日は泊めていただいてありがとうございます」

「あら男前ね、はじめまして晃くん。こちらこそ昨日はいつきのお守り、ありがとうね」


 特にお母さんは——今村さんとかえでさんと並ぶと、完全に3姉妹だ。


「……ちょっとママ、それ、どういう意味よ」

「だってあんた……台風の夜って苦手じゃない」

「そっ、それは子どもの頃の話よ!」

「え〜っ、そうだったっけ?」

「そうよ! 私ももう16よっ、いつまでも風の音なんか怖がっていないわ」

「またまた〜ママの前で強がらなくてもいいのに」

「そんな事ないもん!」


 昨晩はあんなにも震え上がっていたのに強がる今村さん。家族とはいえ、やっぱり弱いところ見せるのは恥ずかしいのだろうか。


 そして——風話で盛り上る2人をよそに、物凄く真剣な表情で俺を凝視するお父さん。


 お母さんは話し方的に、砕けた感じの人っぽいけど、お父さんはどうなのだろうか。


「……晃くん」

「はい」


 渋い……とても重厚な声だ。


「……単刀直入に聞くが、昨日の夜はいつきとどこ迄……ぐはっ!」


 恐らくお父さんが、聞いちゃいけない事を聞こうとしたタイミングで今村さんの左フックが炸裂した。


「なにしれっと、娘のプライバシー侵害しようとしてんだテメーっ!」

「いや、だって気になるじゃん!」

「気になってもそういうことは聞くなっ! くそ親父!」

「ぐはっ!」


 ……更にボディーブローが炸裂した。なんとなく……今村さんが強い理由が分かった気がする。


「ごめんね、晃くん。2人はいつもこうなの」

「……なかなか、激しいですね」

「そんなことないよ、アキラ様の前だから、いつもより樹、大人しいよ」

 

 いつの間にかかえでさんが、ピタッと俺にくっ付いていた。つーか、これで大人しいのか。


「何やってんのよ、お姉ちゃん! 離れなさいよ!」

「え——っ、みんなのアキラ様だよ〜独り占めしないでよ」

「違うわよ! 私の彼氏よっ!」

「晃くんモテモテ……羨ましいなっ! パパもモテたい!」


 ……なんだかカオスな空間になってしまった。


「もういいでしょっ、晃、部屋に戻るわよ!」

「あ、うん」

「えーっ、もう行っちゃうのアキラ様〜」

「早く離れなさいよお姉ちゃん!」

「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」

「……あはは」

「『あはは』じゃないわよ! あんたも鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!」


 楓さんも今村さんも一歩も引かず、今村さんの部屋に戻った頃にはもう、俺はぐったりだった。



 *



「なんか……色々とパワフルだったね」

「いつも、あんな感じよ」

「なんか賑やかで羨ましいよ」

「……そお? うるさいだけよ」

「それでも、なんか羨ましいよ。うちは一人っ子だし、両親も仕事が忙しくてあんまり家にいないから」

「えっ、まじで?」

「うん……たまに帰ってきても疲れ切ってるしね」

「……それは、寂しいかもね……食事とかはどうしてるの?」

「コンビニか外食かな」

「毎日?」

「うん……たまに、舞子まいこ姉ちゃんが作りに来てくれるけど、舞子姉ちゃんも忙しいしね」


 眉を八の字にして俺を見つめる今村さん。


「舞子姉ちゃんって、誰?」


 声のトーンが1段階下がった。


「あっ、まだ話した事なかったよね。樋口先生の事だよ」

「……樋口先生って、あの樋口先生?」

「そうそう、あの樋口先生」

「なんで樋口先生なの?」

「ご近所さんなんだよ。子どもの頃からよくお世話になってるんだ」

「……かなり意外な繋がりね」

「うん、俺もウチの学校の先生だと知った時は驚いたけどね」

「そりゃ、知り合いが先生だとびっくりするよね」

「うん……本当は俺も、自炊できた方がいいんだろうけど……ギタリストだから、指切ったりすると死活問題だしね」

「……確かに」

「さすがに毎日店屋物は飽きるけど……それも贅沢な悩みだと思ってる」

「じゃぁ、じゃあさ……部活がない時は私が作りに行ってあげようか?」

「え……もしかして晩御飯?」

「今の話の流れでそれ以外の事があるのかしら」

「そ……そうだよね」


 めちゃ嬉しい……めっちゃ嬉しいけど。


「でも、なんか悪いよ」

「全然悪くない!」


 食い気味に答える今村さん。……若干ムッとしている。


「晃の性格だときっとそう言うと思ってた。でも、そこは遠慮しないで欲しいんだけど」


 ……遠慮しないでと言われても、曖昧な関係の俺が、今村さんにそこまでしてもらってもいいものだろうか。


「…………」


 俺が黙っていると今村さんが続けた。


「晃は今の関係……気にしてるよね?」

「……うん」


 俺たちの関係は恋人でなければ友達でもない……なんとも微妙な関係だ。


「私も気にしてたけど……もう気にしないことにした」

「……それはなんで?」

「理屈で考えると、変な方向に行きそうだったからよ」


 ……あっ。


「私は今の関係が気に入っているの……無理に納得しようとして、言い聞かせて、今の関係がなくなるのが嫌なの」


 ……同じだ……今村さんも俺と同じだ。


「だから、私はやりたいようにやる。だから晃も気にしないで欲しい」


 やりたいようにやるか……いかにも今村さんらしい結論だ。


「ありがとういつき、じゃぁお願いしようかな」

「うん!」


 この1日で色々あったけど、今のいつきの言葉でなんだか少し吹っ切れたような気がする。

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