第2・5話 俺と寺沢
今村さんの彼氏役になった翌日、俺は
場所は校舎裏。もしかして……しめられたりするのだろうか。
「悪いな浅井、わざわざ呼び出して」
寺沢の物腰はとても柔らかかった。しめられる心配はなさそうだけど。
「ううん、大丈夫……それより俺に用って、やっぱ今村さんのことだよね」
「ああ、今村のことだ」
昨日の今日だし……寺沢と付き合いなんて無かったのだから当然か。
「……いつからなんだ? 最近すっげー仲良くなってるのは知ってたけど」
いつから……きっと付き合い始めた日のことだよね。でも実際に付き合ってないし、彼氏役も昨日からだ。
だからと言って正直に昨日からって答えたらそれはそれで不自然だ。——とりあえず、曖昧に答えて濁そう。
「ゴールデンウィーク明けに急激に仲良くなって……それで自然に」
「そっか……本当につい最近なんだな」
納得してくれた?
「今村に聞いたかもしれないけど、俺……あいつに告白するの4回目なんだわ」
それは聞いた。高校生になってから学期毎に告白されて、もはや新学期の風物詩になっていると。
「俺さ……中学の頃からあいつの事、めっちゃ好きだったんだわ……まあ、今も普通に未練あるけどな」
……そんな頃からだったのか——胸が痛む話だ。
「あいつモテるからさ、中学ん頃からよく告白されてたんだよ」
やっぱりそうなんだ。
「でも、誰とも付き合ってなかったみたいなんだ」
それは意外だ。
「あいつさ……告白された後はいつも寂しそうだったよ……まあ、仲のいい友達が離れていくわけだからな——あいつの気持ちは俺にも分かるよ」
今村さんの言っていた——『その気がないのに告白されて……断って、変な感じになって』ってやつか。
「だから、俺がそれに終止符を打ってやりたかったんだけどな——まさか浅井と付き合うなんて思ってもみなかったわ」
「それは……俺も」
「おいおい、今村に選ばれた男がそんなんで大丈夫か?」
「だって……釣り合わないじゃん、俺と今村さんじゃ」
「……いや、そんな事ないだろ。あんなにも楽しそうに話してる今村はあんまり見ないからな」
「……そうなんだ」
「んで、それ今村に絶対言うなよ、あいつそう言うの嫌いだから殴られるぞ」
「……うん『殴るわよ』って言われた」
「何だ、もう言った後だったのか」
「うん」
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
「今村はさ……見た目だけじゃなくて性格もいいからさ、本当に大切にしてやってくれよ」
寺沢が深々と俺に頭を下げた。
……本当に今村さんのことが好きだったんだな。
「それは約束するよ」
本当の彼氏じゃない俺にできる範囲で。
「あとさ……厚かましい話なんだけど」
「え、なに?」
「浅井が嫌じゃなかったら、これからもお前らに関わっていいか?」
流石、4回も告白してくるだけあってメンタル強いな。俺なら絶対避けるのに。
「別にいいけど……寺沢は辛くないの?」
「……辛いさ」
やっぱ辛いんだ。
「でも、告白が原因で友達が減ると、また今村が悲しむだろ」
……寺沢。
「まあ、そんなわけでよろしく頼むわ」
「うん、分かった、こちらこそよろしく」
寺沢は、クラスの中では結構オラついていて苦手だったんだけど、案外いい奴だった。
今村さんのおかげで、また一つ世界が広がった気がした。
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