第5話 罰ゲーム

 可愛くて派手な見た目で一際クラスでも目立つ今村さん。それを鼻にかける事なく、気取らない性格で人当たりも良くて、クラスのみならず学内にファンは多い。


 聖女様のように神聖視されがちな彼女だけど、それはあくまでも表向きの姿であり、プライベートで俺に見せる顔はまるで別人だ。


 ——これはそんな今村さんと俺のプライベートのある日のお話だ。


「ねえ浅井……私、知ってるの」

「え……何を?」

「あんた、将棋の対戦成績がイーブンになるように手加減する事があるでしょ?」


 今村さんは将棋がめっちゃ好きだ。実は俺も将棋は好きで、プロの棋士にその筋を褒められた事もある。


 ……そんな俺と今村さんの実力は拮抗していて手加減する余裕なんて1ミリもない。


「そんな事ないよ……いつも全力だよ」

「良いのよ……気を使ってくれなくても、私が未熟なだけだから」


 いや、違うよ今村さん。今村さんは普通に強いよ。手加減しているのは格ゲーだよ。


「ねえ浅井……私もっとスリリングな勝負がしたいの……だから負けた方が罰ゲームってのはどう?」

「ば……罰ゲーム? 罰ゲームって何を?」

「何がいい?」


 何がいいか……でも急に言われてもな……今村さんに変な事をさせるのも嫌だし。


「……そうね、こう言うのはどう」


 ……人に振っておいて自分で答え始める今村さん。俺は彼女のこういうところを結構可愛いと思っている。


「……負けるごとに服を一枚脱ぐってのは?」

「はあ?」


 ……脱ぐって……とんでもない提案が飛び出した。


「『はあ?』じゃないわ、服を脱ぐの」

「えっ、何で?」

「罰ゲームだからよ」


 ……今村さんは、何を仰っているのだろうか。


「いやいやいやいや、それは不味いっしょ!? 百歩譲って俺は男だから良いとしても、今村さんは女の子だよ?」

「だから罰ゲームなのよ」

「今村さん……負けたら脱ぐんだよ? 平気なの?」

「平気よ……だって負けないもん」


 なんか、その負けないもんって……フラグな気がする。


「「よろしくお願いします」」


 ——不安で仕方なかったけど、今村さんに押し切られる形で対局が始まった。


 ……そして。


「あっ! ダメっ! そこおいちゃだダメ!」


 俺の予想通り……今村さんはあっさり負けた。


「うぅ——————っ」


 でも、ここで脱がせてしまったら……男としてダメな気がする。


「……今村さん、やっぱ脱ぐのはなしにしよ」

「ダメよ! 決めた事よ! これは勝負だもん」

「いや、でも……」

「うるさい!」


 俺の制止を振り切り、今村さんはTシャツを脱ぎ始めた。……もう俺には目を覆うことぐらいしか出来なかった。


「何してるの、浅井。そんなんじゃ次の対局が出来ないわよ」


 まだ、やるつもりなんだ……つーか、本当に見られても平気なの⁈


「もう、焦れったいわね」


 今村さんは、目を覆う手を強引に引っぺがしに来た。


「ダメだって今村さん!」必死で抵抗したが。今村さんの馬鹿力に敵うはずもなく——俺は勢い余って手首を掴まれて押し倒される形になった。

 それでもせめてもの抵抗として目は開けなかった。


 ただでさえドキドキするシチュエーションなのに……見えないことでドキドキが倍増しだ。


「浅井、目を開けなさい。早く始めるわよ」

「いや……でも」

「プロレスに切り替えてもいいのよ?」


 そんな格好でプロレスなんかしたら、色々不味いことになる。

 これは避けらない……俺は覚悟を決めて目を開けた。


 すると……「みっ、水着⁈」


「そう、水着よ。可愛いでしょ?」


 いたずらっ子のような笑顔でビキニ姿を見せつける今村さん……脱ぎっぷりの良さは水着だったからか。


「昨日買ったの」

「そ……そうなんだ」

「感想は?」

「も……もちろん似合ってる! 可愛いよ!」

「……ありがとう」


 ……そうか……水着を見て欲しかったからこんな勝負を仕掛けたのか。普通に言ってくれたらよかったのに。


「さあ、続きよ!」

「え……まだやるの」

「3回勝負だよ」


 えっ、なに? 水着を見せたかったわけではない?

 ……それとも照れ隠し?


 つーか……3回勝負ってことは、もし俺が後2回勝ったら今村さん……水着も脱ぐってこと?

 あの、ビキニの下が露わになるって事?

 想像するだけでドキドキしてきた。


 ——今村さんは言い出したら聞かない。とにかく俺は対局を続けることにした。


 それにしても……目のやり場に困る。

 水着と言ってもビキニは下着と布面積はほとんど変わらない。


「浅井」

「はっ、はい」

「よろしくお願いします」


 ニヤニヤしながら俺を見つめる今村さん。でも俺は彼女を直視することが出来なかった。


「……よろしくお願いします」


 ぶっちゃけ、将棋どころではなかった。眼の前にビキニ姿の今村さんが居るのだ。こんなにも集中力を欠いた状態で勝負になるはずがなかった。


 ——対局は俺の惨敗だ。


「さあ、浅井……早く脱ぎなさい」

「……やっぱり、脱がないとダメ?」

「脱がせてあげようか?」

「……自分で脱ぎます」


 今村さんに任せると、色々危険だ。とりあえずシャツを脱いだ……そして俺は——次の対局でも大敗した。


 今村さんは、したり顔だった。


「これで通算21勝20敗、私のひとつ勝ち越しね!」


 ……今村さん、水着を見せたかったわけじゃなくて、勝つための作戦だったの? 初戦、わざと負けて水着になったの?


「やったね!」


 すっげえ笑顔だ……そこまでして勝ちたいんだ。


「じゃあ、勝ち越し記念として……私が脱がしてあげるね!」

「やっ……やめて……今村さん止めて!」


 止めてと言って聞く今村さんじゃなかった。

 結局この後、俺はビキニ姿の今村さんに色んなプロレス技を掛けられた。


 色んな意味でよく耐えたと、自分を褒めてあげたい。

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